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中村義洋

撮影/野呂美帆

 全国の小中高が3月頭から休校になり、4月からは緊急事態宣言が発出。その間、中村監督はずっと子供たちの勉強を見ていたという。

「小学生の子供が2人いるんですけど、3月の時点では長期化するとは思っていなかったから、一旦仕事を止めて勉強を見ていたんです。時間割もきちんと作って、1つの教科につき40分くらい。休憩のときに、自分の部屋に行ってたばこを吸うんだけど、次の授業の予習もしないといけない、職員室気分(笑)。それはちょっと面白い経験でしたね」

 また、もしもの時に備えて電気を使わない生活も体験した。

「このままインフラが全部ダメになっちゃうかもしれないからと、2泊3日で電気無しの生活をやってみたんですよ。夜はランタンや懐中電灯を使って、飯は外で炭を使って肉を焼いたりして。僕は料理が好きだから楽しかったけど、子供たちは文句ばっかり言っていましたね(笑)」

中村義洋

 昨年末に『決算! 忠臣蔵』が公開され、次回作に取り掛かろうとしていた中村監督に直近での大きな影響はなかったが、映画関係者などからは不安の声が聞こえてきた。

「僕が幹事をやっている映職連(映像職能連合)という団体があり、そこから政府にも働きかけを行っているんですけど、なかなか難しい部分がありますね。そもそもフリーの道を選んでいるのは僕らでもありますし。こんなときこそ、映画会社や出資者の人たちは、せめてギャラを前払いで渡してほしいというのが正直なところ。そうじゃないと、フリーの若手や助手さんらは困ってしまうだろうなと。困窮の声が直接届いているわけではないんですけど、映職連を通じて伝わってきてはいるし、こちらから連絡してみると、やはり全て止まっている状況なので」

 現在進行系でダメージを負っている映画界において、解決しなければならない課題も多い。

「外出自粛期間中はBlu-rayや配信などでたくさんの映画を観ました。僕の映画もレンタル数や配信の視聴回数が増えているそうで、それはこれまで頑張ってきたという自負もありますし、素直に嬉しいですよね。でも問題は、これからどうやって映画館へ人を戻していくかなんですよ。全ての映画監督がそうだと思うんですけど、みんな画も音も映画館のスクリーンを想定して作っている。だから、映画館では聞こえるけど、テレビでは聞こえない音がいっぱいある。後ろから敵が攻めてくる設定のシーンなら、こっちのスピーカーから出るようにしようとか、細かく調整していますし、そういうのは映画館でしか感じることができない。これは、声を大にして言いたいですね」

中村義洋

 新型コロナウイルスの影響はいつまで続くのか。中村監督が振り返るのは、ある撮影風景だった。

「映画には“天気待ち”というものがあって、撮影のために晴れるのを待つことがあるんですね。コロナもこれと同じじゃないかなと思うんです。もう雨が止むのを待つように、ひたすら終わりを待つしかない。天気待ちのときは、運動会のときみたいにテントをたくさん立てて、みんなやることがないから、その中で思い思いにしゃべりながら、雨が止むのを待っているんですよ。でも、僕のチームはこれにあまり当てはまらなくて、雨が降っていても“いいよ、いいよ、やっちゃおう”って撮影しちゃうんです(笑)。そうしたら雨が止んだりすることもけっこうある。そんなことを、最近なんとなく思い出すんです」

中村義洋 なかむらよしひろ 映画監督。1970年生まれ、茨城県出身。大学在学中の短編映画『五月雨厨房』が、ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞。1999年に自主制作映画『ローカルニュース』で監督デビュー。主な監督作品に『アヒルと鴨のコインロッカー』『チーム・バチスタの栄光』『フィッシュストーリー』『ジェネラル・ルージュの凱旋』『ゴールデンスランバー』『残穢―住んではいけない部屋―』『殿、利息でござる!』『忍びの国』『決算! 忠臣蔵』などがある。

撮影/野呂美帆