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YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

第11回「ツリーハウス暮らし」

2016.4.20

生まれ育った街には、大きな木が茂るのは神社くらいしかなくて、子どものころ僕はいつもそこの木に登って遊んでいた。何度見つかって怒られても、大人たちの目を盗んではゴツゴツとした幹によじ登った。枝に手足を掛け、体が地面からどんどん離れていくと、体中の血がざわざわと湧いてくるのがわかる。まるで野生動物になったみたいに。木の上の空気は地上とは違う匂いがする。青空が近くて、頬に当たる風の感触も新鮮で、僕はこのまま木の上で暮らせたらと思っていた。だけど、子どもだった僕はツリーハウスなんて知らなかったし、そんなものを木の上に建てる技術もない。木の上で暮らすことは、遠い子どもの頃の夢でしかなかった。

生きている木を土台にしてつくられた家のことをツリーハウスと呼ぶ。必ずしも「木の上にある」ことが条件じゃない。家を支えるのが「生きている木」であること。だからその木が枯れたときは、ツリーハウスが終わるときでもある。生きている木に抱かれ、守られている家だ。だから、それを建てようとする人たちは、できるだけ木に負荷をかけないように工夫する。いつか木の寿命が尽きた時には、その木と共に大地に還る素材で造ることが理想だ。

子どもの頃の夢。そして、子どもには実現できないもの。ツリーハウスは、「心の中の忘れもの」のような存在だと、糸井重里氏が言っていた。「ツリーハウスの話をすると、誰もがちょっと笑う」とも。木の上での生活は冒険だ。足を踏み外したら怪我をするというスリル。でも、木に守られているような安心感もそこにはある。インドネシアや中南米の熱帯雨林では、人々はずっと昔から木の上で生活していた。僕らの遺伝子の中にも、そういった記憶が刻まれているのかもしれない。

ただ、地面に接していないことが多いツリーハウスは、法的に「住居」として認められるのは難しい。それでも、ツリーハウスを実現させようとしている人たちがいる。シェアハウス「バウハウス横浜」は、「なんじゃもんじゃハウス」とも呼ばれている。ここにあるツリーハウスはカフェになっていて、住民以外でも木の上での時間を過ごせるんだ。実現に導いたのは、「自由を求める心」。それは好き勝手にやる自由じゃなくて、「心からやりたいと思ったことを諦めなくていい」という自由である。誰かから「無理だ」と言われても、まずはやってみる。そうしてできたツリーハウスのカフェは、いつも行列ができるほど賑わっている。

どうやらツリーハウスには、人を集める力があるらしい。長野県小諸市にある「安藤百福記念 自然体験活動指導者養成センター」では、敷地内にアーティストによる様々なツリーハウスが設置されている。小さな巣箱が複数集まったようなツリーハウス。巨大なチーズみたいなツリーハウス。蝶のようなもの、はたまた蜘蛛の巣のようなもの。どれも斬新で人目を惹く。森の中で見つけたら、よじ登ってみずにはいられない。

糸井重里氏も、震災で津波被害のあった東北で「100のツリーハウス」というプロジェクトを始めている。目指すのは、被災したまちを元の姿に戻す「復旧」ではなくて、新しく盛り立てていく「復興」だ。ポジティブな観光の目玉になるものができないかと、考えながら林の中を歩いていた糸井さんが思いついたのがツリーハウスだった。東北に100個のツリーハウスをつくる。そうしたら、四国を巡礼するように、みんながツリーハウスを目当てにやってくるだろう。プロジェクトは進み、一般社団法人「東北ツリーハウス観光協会」までできた。たくさんの人と人をつなぎながらちょっとずつツリーハウスは生まれていき、今は7つめが制作されているところ。

僕が越してきたばかりの家は、海辺の町の山間にある。それは小さな山なのだけれど、森に抱かれる暮らしに憧れていた。休みの日、微かに残る人が通った後を頼りに、裏山の斜面を登ってみた。ふいに視解が開ける。頂上付近に、そこだけぽっかりと野原があった。その向こうに見えるのは、湾に囲まれた海。崖から海へ張り出すように枝を伸ばす木のひとつに、子どものころのようによじ登ってみる。大人になった僕は、今ここに新しくツリーハウスをつくることも、やろうと思えばできるのだ。この眺めを独り占めしたい気持ちもあるけれど、でもきっとすぐに仲間たちを呼ぶようになるだろう。ツリーハウスは、みんなの夢でもある。

Via:

日本ツリーハウス協会 ジャパンツリーハウスネットワーク
http://www.treehouse.jp/jtn/

木の上にあがったときの気持ちを、なんと言えばいいんだろう。 - ほぼ日刊イトイ新聞
http://www.1101.com/kobayashitakashi/

なんじゃもんじゃハウス
http://nanjya.jp/

小諸Tree House Project
http://momofukucenter.jp/treehouse/

100のツリーハウス – ほぼ日刊イトイ新聞
http://www.1101.com/treehouse/

東北ツリーハウス観光協会
http://www.tohokutreehouse.com/

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