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YADOKARI

未来住まい方会議

アートディレクターのさわだいっせいとプランナーのウエスギセイタを中心とする「住」の視点から新たな豊かさを定義し発信する集団。ミニマルライフ、多拠点居住、スモールハウスを通じ、暮らし方の選択肢を提案。主な活動は、『未来住まい方会議』運営、スモールハウスのプロデュース、空き家・空き地の再利用支援ほか。
250万円のスモールハウス『INSPIRATION』販売開始。http://yadokari.net/

第6回「持続可能な暮らし」

2015.11.20

2011年3月11日、そしてそれに続く計画停電の日々。津波で大切な人を失ったわけでもなく、汚染された我が家に帰れなくなったわけでもないけれど、あの日々はじわじわと心を蝕んでいく感じがした。被災地の人たちはもっと辛い思いをしているのだから、と自分に言い聞かせながら、でも何かが内側から崩壊していく。店には懐中電灯も電池も、ろうそくも売っていなかった。計画停電の夜は果てしなく暗い。パソコンも携帯も、充電が切れてしまえば使えない。テレビもうつらないし、明かりも無いから本を読んで時間を潰すこともできない。ガスストーブは電気がなければ点かないことに気づいた。まだ寒い3月。暗闇の中、毛布を被って時間が過ぎるのをただ待っていた。

電気が使えるってありがたい。それまでは電気は、スイッチを押せば勝手に点くものだった。台風が来て停電になっても、数時間のうちに復旧する。でも、あの日からすべてが変わった。停電の後すぐ復旧するのは、嵐の中作業をする人がいるからだ。当たり前のようにあるライフラインは、多くの人の手で支えられている。何事も起きていない時には忘れていることだけれど。

電力会社の送電網のことを「グリット」という。送電網がある暮らしはとても便利だ。でももしそれが、災害などで途絶えてしまったら? 電気に支えられている僕たちの暮らしはとても脆い。そんなことが起きても、独立して電力を需給できるようにしようという考え方がある。送られてくるままにエネルギーを使うのではなく、自分で自分が使う分のエネルギーをつくる暮らし。それが「オフグリット」だ。

オフグリット生活を実践している人が日本でも増えてきている。たとえば、ウェブマガジン「greenz.jp」編集長の鈴木菜央さんも「なんちゃってオフグリット」の実践者だ。2014年、鈴木さんはトレーラーハウスに家族4人で暮らし始めた。敷地内にはこのトレーラーハウスの他に、YADOKARI小屋部が建てた小さな小屋がある。この小屋で使用する室内灯、パソコン、スピーカーの電力は、すべて太陽光パネルで賄っている。

一度にすべてをオフグリットとするのはハードルが高い。電気使用量を減らさずオフグリットに挑戦しようとすると、蓄電池などの設備投資にお金がかかってしまう。でも、小さな暮らしに切り替えることで、自然と電気代は減っていく。鈴木さん一家は、トレーラーハウスに引っ越すにあたり、これまで持っていた家具や電気製品を思い切り減らした。引っ越し前の賃貸住宅は150㎡あったが、トレーラーハウスはわずか35㎡。ロフト部分を合わせても50㎡ほどしかないので、所有できる物には限りがある。テレビ、電子レンジ、電気式オイルヒーターをやめ、冷蔵庫も450Lから120Lのものにした。小型の冷蔵庫は音が気になるので、夜間には電源を切っていた。そのうち電源を切ったままでも問題ないことがわかり、小型の冷蔵庫は単なる食料保管庫となった。小さな家は暖房効率も良い。前の家では1万円ほどかかっていた電気代が3千円まで減った。電気代が2千円に近づくと、オフグリットな生活が見えてくる。無理をしないことが持続可能な暮らしには必要だ。住まいそのものをダウンサイジングする他にも、最新の省エネ家電や、インターネットと連携して管理する機器を取り入れることで、必死になって電気代を切り詰めなくても消費量を減らすことができる。

つながっていることは安心だ。でも、僕たちがこれまで頼ってきた「グリッド」は、つながっている先の見えない、いつ断ち切られるかわからない、孤独な回線であったのかもしれない。オフグリットな生活に切り替えると、これまでおろそかにしていた人と人とのつながりが見えてくる。鈴木さんはガスもオフグリットに近づけるために、「薪ネット」というネットワークをつくった。農家の山の手入れを手伝う代わりに、伐採して出てきた薪をストーブ用に無償でもらう。グリットに頼る生活をやめることで、新たなつながりが生み出された。

どこか遠いところでつくられて運ばれてくるエネルギーを使うのを抑えてみる。自分の目に見える範囲で、自分の使うエネルギーを作り出す。持続可能な暮らしは、人の顔の見える暮らしであるのかもしれない。

僕は震災の日を境にテレビを捨てた。辛いニュースと同じコマーシャルしか流れない画面に辟易したのだ。テレビは情報を与え続けてくれるけれど、語らい合うことはできない。車のヘッドライトしか道を照らさない計画停電の夜、閉じこもっているのが嫌になってふらりと出かけた。皆が持ち寄った懐中電灯とろうそくの明かりで、細々と営業していたお店で食事をした。他のお客さんから借りた懐中電灯の明かりは、ただ手元を照らすだけではなく、心の奥までを照らす明かりだった。


Via:
【特集】greenz.jp 編集長 鈴木菜央さんが実践する小さな住まい方、家族4人のトレーラーハウス暮らし(未来住まい方会議 by YADOKARI)
http://yadokari.net/japan-minimal-life/28096/

トレーラーハウス、そのタイニーな暮らしの実験(わたしたち電力)
http://wataden.org/feature/trailer-house01/

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