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 寿大聡が尊敬できる先輩やお世話になった方々と語り合う、連載の第二回目は、三池崇史監督の登場です。
寿大 最初に三池監督とお仕事させていただいたのは『十三人の刺客』で、藩士の一人でした。無名塾を出て、どこへ行ってもプロフィールすら受け取ってもらえない状況の中、オーディションを受けさせていただいて。でも、初めてお話させていただいたのは、WEB公開のオリジナルムービー『宇宙兄弟』で宇宙人を演じたときでしたよね。
三池 ほぼ即決でした。キャラ的に宇宙人っぽいなと(笑)。僕らからしたら、無名塾出身ってだけである意味、宇宙人だよね。スペシャルな感じ。役者として力があって、個性もある。寿大さんのときは入塾の倍率どのくらいだったの?
寿大 僕のときは1000人くらいと聞いたことがあります。
三池 その1000人のうちの1人か2人なわけでしょ。それはやっぱり運命だし、目に見えない義務もある。要は落ちてしまった他の人の想いも背負わなきゃいけない。

寿大 そうですね。演じることが好きで無名塾に入ったので、その辺は覚悟しているというか。
三池 僕らが一番頼りにしているのは、そういう役者さんの覚悟や経験なんです。撮影以外の時間に何をしていたか。悔しいことやうれしいこと全部ひっくるめ、どんな経験をしているか。
寿大 そういった意味では、『地球兄弟』でローマに行かせていただいて、すごく良い経験をさせてもらいました。ローマ国際映画祭のアウトオブコンペ部門で上映されたんですけど、観客の皆さん、大笑いしているんですよ。
三池 全部のシリーズを上映したから1時間ちょっとかな。作中に出てくるしりとりとかローマの人たちに通じるのかな、と思ったんだけど、大爆笑してた。卓球やっているだけで笑ってましたから(笑)。テレビ番組でも映画でもない、これはなんだ?っていう異物感で観てもらえた。
寿大 基本的にはダイナミックなことは起こらない作品で、でも、そこが面白い。参加していてとても楽しかったです。

三池 機材はこれで、ロケはこうで、スタッフがどれだけいてとか、いわゆる映画らしい行為の中から生まれてくるものだけが映画じゃないんですよ。今だとiPhoneで撮ったって、自分で編集したって、面白ければどんなものでも世界に届いちゃう。そういう夢があっていいよね。実際にローマに行けたわけだし。
寿大 そうですね。ローマではずっとご一緒させていただきました。財布を買おうか悩んでいたら、監督が買うよう促してくれ、その時『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』でいらっしゃっていたプロデューサーの上原寿一さんたちがお金を出し合って財布を買ってくれたんです。こんなことありえます? 奇跡ですよ。

三池 財布って大事じゃない? 気に入ってもらえればいいけど、気に入らないと困るから寿大さんに選んでもらって。
寿大 本当にありがとうございました。あと覚えているのはローマでエルメスの店に行こうとしたら、日曜なのに閉まっていて、監督、ちょっと怒ってましたよね?(笑)。
三池 いやいや、見るだけ見たかっただけで(笑)。いろいろと観光もしたね。
寿大 バチカンに行きましたね。広場に石像があって、顔が仲代(達矢)さんに似てるって(笑)。

三池崇史 みいけたかし 映画監督 1960年生まれ、大阪府出身。1991年に『突風!ミニパト隊』で監督デビュー。以降、精力的に映画製作を続ける。公開待機作に『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(2017年8月4日公開)、『ラプラスの魔女』(2018年公開)がある。

三池 映画祭で行っているからそこまで余裕はなかったんだけど、でもどうせ行くんなら1日くらい観光とかしたいよねって。
寿大 飲みながら映画の話とかもたくさんしていただいて、楽しかったです。
三池 特別な時間でした。
寿大 楽しかったのもそうなんですけど、すごく糧になる話もしていただきました。これはその時の話ではなくて、たぶん何かのインタビューで読んだんですけど、三池監督の言葉ですごく覚えているものがあるんです。
三池 なんだろう。

寿大 「成功するには選択をしない」という主旨の言葉で、これはすごい、名言だなって。
三池 僕はもともとVシネマから出てきて、そのときに映画の人たちから「Vシネマは映画じゃない」って言われてたんですよ。でも、さっきも言ったけど、観る人にとってはそれが映画であろうがVシネマであろうが関係ない。だから、映画を撮るようになったからVシネマを撮らないとか、そういう“選択”はしないっていうことなんです。だって、普通の映画監督だったら『地球兄弟』やらないよ(笑)。
寿大 (笑)。選択をしないことでそれは経験になるし、やりたいことも広がっていくんですよね。

寿大 聡 じゅだいさとし 俳優 仲代達矢主宰の無名塾出身。『婢伝五稜郭』『荒木町ラプソディー ~地層捜査~』などの舞台に出演。2013年には三池崇史監督作品『地球兄弟』主演。その他、『十三人の刺客』『藁の楯』『土竜の唄』に参加。テレビ朝日系ドラマ『女囚セブン』にもレギュラー出演。

三池 だってつまらないじゃない。映画監督はこうあるべき、役者はこうあるべき、なんて決めちゃうのは。そういうのは最終的に自分が立っている場所であって自分で選択して決めるものじゃない。
寿大 本当にその通りだと思います。
三池 人との関わりも選択するものじゃない。寿大さんともそう。お互い将来どうなるかわからないし、どこに行くかわからないけど、生き残っていれば絶対どっかで出会うんですよ。寿大さんが今よりも大きい役でバンバンいくようになったときは、俺もう撮ってないかもしれないから、遠慮なく引き上げてね。引き上げられるのは割と好きですから(笑)。
寿大 いやいやいや(笑)。恐縮です。

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