尊敬できる先輩や、お世話になった方々と語り合う「トーク侍」。 第一回目は、作家の佐々木譲さんの登場です。
寿大 最初にお会いしたのは、譲先生の原作の『婢伝五稜郭』という舞台に出させていただいたときですよね。2010年に六本木の俳優座劇場でやった舞台で。
佐々木 あ、そうか、婢伝が先でしたっけ?
寿大 そうなんですよ。無名塾の先輩に、譲先生とも仲が良い樋口泰子さんという女優さんがいて、樋口さんがその舞台に出ることになって、それで僕も声をかけていただいたんです。その後、『地層捜査』の舞台もやらせていただいて。
佐々木 そのときは『地層捜査』を舞台化するっていう構想は全然なくてね。花街があった、新宿四谷の荒木町の話なんだけど、連載が終わったら、これを舞台にするという話になった。でも僕は、連載を書いているときから、主人公の水戸部っていう30代の若手刑事は、寿大さんだなっていうのは、イメージとしてあったんです。
寿大 すごくありがたかったです。先生はいつもご自身の小説が舞台になったとき、観に来てくださるんですけど、舞台での表現が小説とは異なるとき、飛び出した表現になってしまっているときも、すべて認めてくださるというか、面白いって言ってくださるのが、とてもうれしいんです。毎回、すごく良い感想を言っていただいています。
佐々木 原作は寿大さんからイメージを膨らませて書いたんだけど、寿大さんはそれ以上の表現で返してくれるんですよ。あの水戸部を、寿大さんはこんな風に豊かにしてくれたんだって。毎回、驚きと感動で、面白く観ています。
寿大 ありがとうございます。なんだか恥ずかしいですね(笑)。『地層捜査』は、初めての刑事役だったこともあって、とっても思い出深い作品なんですよ。時代が現在からどんどんさかのぼったり、戻ったりを繰り返すドラマ的な脚本だったんですね。それを舞台でやるもんだから、とても大変だった(笑)。
佐々木 現代と花街の時代を照明だけで表現していましたよね。あのスペースだけでよくやるなぁと思って観ていた。
寿大 あとセリフも多かったんですよ。二時間半、一度も楽屋に戻らなかったんです。水戸部はそのまま出続け、他の登場人物だけ入れ代わり立ち代わり。一回始まっちゃったら、最後まで休憩なしで駆け抜ける感じでした。今でも覚えているのが、あるシーンで出てくるはずの人が出てこない。
佐々木 スーツケースを持って出てくるはずが(笑)。
寿大 そうなんです。出てこないと次のシーンが始まらないんです。だから2分くらい舞台でウロウロ歩いてごまかして(笑)。
佐々木 でも、その日の公演も観てるけど、そんなに不自然じゃなかったよ。出て来るのここじゃなくて、もっと後だったかな、と思って。自然に進んでいるように見えた。
寿大 ホントですか!? いや、全然出てこないって、内心は、すごい焦っていて。なんとか無事に終わりましたけど。
佐々木 ふふふふ。
寿大 譲先生には、ホント、大変なときはいつも助けていただいてます。ちょっと前に単発なんですけど、4作品くらいを同時にやらなきゃいけない時期があって。
佐々木 譲 ささきじょう 1950年生まれ、北海道出身。1979年『鉄騎兵、跳んだ』で作家デビュー。2010年『廃墟に乞う』で第142回直木賞受賞。2016年には第20回日本ミステリー文学大賞を受賞。近著に『沈黙法廷』(新潮社)
佐々木 あったね。「忙しくて死にそうなんですけど」って連絡が来た(笑)。
寿大 たまたま被っちゃったんですね。だから、ちゃんと読み込んで役を作るというよりは、もう機械的にセリフを覚えてこなす、みたいになっちゃって。「こういう仕事ばかりで大丈夫ですかね?」って相談したら「俺も若い頃そういう時期があった」って。
佐々木 まだ30代だから、一回そういう時期は通過しておいたほうがいいって、冷たいこと言っちゃった(笑)。
寿大 いや全然そんなことないですよ。すごくためになりました。
寿大 これだけいろいろな作品を書かれていて、僕も大ファンなんですけど、発想というのはどこから湧いてくるんですか?
佐々木 これを書くって決めてからは細かく詰めていかなきゃいけないし、取材も勉強もするんだけど、それ以前の物語の核みたいなものは、思いついたときにすぐメモして、そういうのをたくさんストックしてる。
寿大 すごくそのメモ見たいですね(笑)。創作意欲を失わずにずっと何本も書き続ける秘訣って何ですか?
佐々木 適当に休んで遊ぶことかな。この歳になると、30代のようにはいかないから、休みを取って、きちんと弛緩する時間を作るのが秘訣といえるかもしれないね。
寿大 聡 じゅだいさとし 仲代達矢主宰の無名塾出身。『婢伝五稜郭』『荒木町ラプソディー ~地層捜査~』『五稜郭残党伝』『夜を急ぐ者よ』など佐々木譲原作の舞台に出演。現在ドラマ『女囚セブン』(テレビ朝日系)に出演中。
佐々木 逆に寿大さんが役者を続けているモチベーションって何なの?
寿大 僕は、本当に芝居が好きっていうのがモチベーションですね。今はもう、突き進むだけというか。
佐々木 舞台などを観させてもらうと無名塾出身の人だなってすぐ分かる、きちっとベースがあるお芝居をされるよね。キャラクターで演じていない。演技のしっかりした基礎があって、役を演じてくれる人なので、いつも、すごいと思って観ています。
寿大 ありがとうございます! そう言っていただけるとうれしいです。今後も譲先生の作品に出られるように、もっと頑張りたいと思います。