FILT

加藤 実は僕がクロヌマさんのことを知ったのはつい最近のことなんです。ある雑誌で木彫のクジラを拝見しまして、調べてみたら独学で作品をつくっているすごい方がいるなと。もともとは建築の設計をされていたんですよね?
クロヌマ はい。都内のハウスメーカーで現場監督をしていました。ただ、入社したときから、違和感を抱えていまして、僕はここにいるべきじゃないなという感覚がありました。
加藤 違和感ですか。ハウスメーカーなので、建てるのは主に一軒家ですよね。
クロヌマ そうですね。家をつくりたくて会社に入ったのですが、基本的に大人数でつくるものなので自分で物をつくっているという実感が湧かなかったのだと思います。それに、広い庭付きの一軒家を壊して、3分割した土地に3棟の家を建てるというような事業だったので、家の持つ価値や意味合いみたいなものに迷いが生じたというのもあります。
加藤 なるほど、スクラップ&ビルドが前提の物づくりにも違和感があったと。そこからどうされたんですか?

クロヌマ ある日、現場で大工さんが残していった端材を拾い、家でりんごを彫ってみたんですね。そうしたら、欠けていたものが満たされたというか、何か分からないけれど、確かなものとつながった感じがしたんです。
加藤 おもしろい。「これだ!」と思ったんですね。それから会社を辞めて?
クロヌマ はい。家具をつくる職人になろうと思ったんです。
加藤 そうか、家具だと直に物をつくっているという実感が得られそうですもんね。
クロヌマ そう考えて職業訓練校の木材加工コースに1年間通ったんですが、卒業間近にまた違和感を覚えてしまって。
加藤 またですか! どんな違和感でした?
クロヌマ 結局家具も建築の一部として成り立っているものなので、純粋な家具だけを作るのは今の時代は難しいということがわかったんです。それで、卒業間近に今度は家具の端材を拾って、木のスプーンを作ってみたんです。
加藤 それ本当ですか?おもしろすぎますよ。

クロヌマ いや本当なんですよ。そうしたら、りんごをつくったときのような感覚が戻ってきて、すっかりスプーンづくりにハマってしまったんです。さらに、手づくり市に出したら、乳母車を押しているお母さんが通りかかり、僕のスプーンを赤ちゃんの口に合わせて「こういうのがほしかったんです」と買ってくれまして。

加藤 おお! それはすごい。
クロヌマ 自分のつくったものがお金と交換されるという経済の原初的なものを目の当たりにして、とても衝撃を受けたんです。
加藤 しかも、その赤ちゃんに必要なものですもんね。
クロヌマ そうなんです。そこに僕がつくる意味があると思いましたし、つくった物が人に伝わるという実感も覚えました。もう楽しくなってしまって、アルバイトをしながらですけど、スプーンをつくり続けていたら、次第に発注をいただくようになって。
加藤 順調じゃないですか。
クロヌマ ただ、そこでもまた違和感を覚えるんです。注文を受ければ受けるほど、スプーンづくりが作業になっていくんです。納期も気にしなければいけないし、形も量産型になっていく。なので、もう辞めようと。

クロヌマタカトシ 彫刻家。1985年生まれ、神奈川県出身。2010年頃から独学で木彫を始め、独立。2015年にはパリにて個展を開催。以降、展示会を中心に活動中。2022年4月26日~minä perhonen elävä Ⅰにて個展開催予定。
公式サイト:https://takatoshikuronuma.com

加藤 なるほど。3回目の違和感でわかりました。クロヌマさん、人としてすごい正しいことをされていますよね。普通みんな違和感を覚えながらも続けちゃうんですよ、食えなくなっちゃうから。でも、その違和感を無視せずに向き合うのはすごいです。そして?
クロヌマ その頃から木でおじいさんの人形を彫るようになりまして、なんというか、またりんごのときのような“つながった”という感覚がありました。そこから、手づくり市で「このおじいさんがほしいです」と言ってくれる方がいたり、ギャラリーに置かせてほしいという方がいたりして、だんだんと、道具ではない創作物にシフトしていった感じですね。

加藤 いや、すごいな。僕が見たクジラもそうですけど、狼とか牛に流木を使われているじゃないですか。あれはなぜですか?
クロヌマ 流木を使おうと思ったのは、もっと自分の外からやってくるものがほしかったんです。最初からつくるものを決めるのではなく、流木を眺めているうちに、これはもしかしたら象かもしれない、みたいな。
加藤 偶発性ということですね。じゃあ、クロヌマさんにとっての「至福のとき」は、やはり流木が何かに見えたときですか?

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『スッキリ』『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

クロヌマ そうですね。台風の後、海岸で流木を拾ってアトリエに持って帰って、きれいにして棚に並べるんですけど、あるときふと何かに見える瞬間が来るんです。
加藤 すぐに見えてくるものなんですか?
クロヌマ 棚に並べて5分で見えてくるときもあれば、1週間経っても見えないこともあります。流木によりますね。見えた瞬間は、感覚として野生の風が吹いてくるというか、恐怖も喜びも、さまざまな感情が湧き上がります。祝福されているようでもありますし、その瞬間がしいていえば、僕にとっての「至福のとき」かもしれません。
加藤 あれだけ躍動感のある作品をつくり出すクロヌマさんの根源みたいなものが理解できた気がしました。違和感の話もそうですけど、自分に対して正直で、ちゃんと敏感じゃないとできないことですよね。今日はどうもありがとうございました。

撮影/野呂美帆
top

BACKNUMBER

vol.1

CONTENTS