加藤 平林さんには僕の事務所のロゴを作っていただいて。その節はありがとうございました。
平林 こちらこそお世話になりました。すべて任せていただいて楽しかったです。
加藤 今はフリーとして活躍されていますけど、もともとは資生堂にいたんですよね?
平林 11年ほどいて、そこから独立して20年ですから、デザイナーになって30年ぐらいですね。
加藤 ロゴもそうですが、世の中のいろいろなものがデザインされているじゃないですか。僕もロゴをお願いしたから意識するようになったけど、それまではなんとなくしか見ていなくて。
平林 デザインって普通はあまり気にしませんよね。でも、それが一番正しいと思います。意識してしまうデザインがいっぱいあるのって疲れませんか? 私はデザイン家電とかが苦手で、身の回りの物は基本的に業務用ばかりなんです。
加藤 機能美みたいなことですか。
平林 もちろん業務用もデザインされているんですが、あくまで目的のためのデザインであり、飾られていないところが好きですね。
加藤 平林さんがデザインされるときも、飾らないことを意識しているんですか?
平林 意識というか、自然とそうなってしまいます。私がやっているようなロゴやパッケージの仕事はそうあるべきかなと。ファッションデザインなどは表現みたいなものが入ってくるけど、私は表現者ではないので。
加藤 なるほど、そう捉えているんですね。
平林 私の場合、飾ったり足したりするよりも、「ここまで削っても成立するだろうか?」と考えるほうが好きなんです。
加藤 足していくデザインをされる方もいるけど、平林さんは“引き算のデザイン”をされているということですね。
平林 そうですね。そして、デザインってアイデアを出すことより、最後に適切なものを一つだけ選ぶことの方が難しいんです。
加藤 雑誌で見ましたけど、家のコンセントのプレートをドイツから取り寄せたそうですね。日本のプレートはダメですか?
平林 スイッチとかコンセントのプレートは、デザインが壊滅的ですね。変におしゃれになっちゃって、デザインされすぎているところが気になってしまう。
加藤 おもしろい(笑)。プレートについて考えたことがなかったです。ドイツのスクエアなデザインが好きなんですよね。
平林 角の立っている物が好きなんです。車もベンツのGクラスで完全な軍仕様。車内は鉄板むき出しです。もともと私が国連マニアで、小さい頃にニュースを見ていて国連の車が白くて四角くてかっこよかったんですね。その車がGクラスで、買うならあれがいいなと。
加藤 そんなふうに自分の好みを把握して、スタイルを確立できる人って少ないと思うんですよ。他人からどう見られるのか気になって、自分を飾ってしまうこともあるじゃないですか。
平林 昔はそういう意識もありましたけど、今は全然気にしません。そもそも必要以上に人と会わないようにしています(笑)。
加藤 そうなんですね(笑)。
平林奈緒美 ひらばやしなおみ アートディレクター・グラフィックデザイナー。東京都出身。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、株式会社資生堂宣伝部に入社。2005年よりフリーとして活動。主な仕事にMagazine House「GINZA」アートディレクション、NTT DOCOMO/JTB/HOPE等のパッケージデザイン、坂本龍一、宇多田ヒカル、サカナクション等のアートワークなど。
平林 私は“時間貧乏”なので、時間がムダになることに耐えられないんですよ。のんびりお風呂に浸かっているとか、まどろみながら昼寝をするとか、無理ですね。
加藤 マジですか! それ、最高の時間じゃないですか。
平林 そんなことをしたら後悔の念に苛まれてしまいます(笑)。喫茶店でただコーヒーを飲むなんてこともできません。パソコンを持ち込んで何か作業をしながらならいいんですけど。常に同時進行で動いていないと落ち着かない。
加藤 ムダなことが嫌だというのは“引き算のデザイン”につながっているんですかね。
平林 そうかもしれないですね。
加藤 今後、こういう仕事をしてみたいとかはあるんですか?
平林 釘メーカーのカタログを作ってみたくて。すぐ目的の釘を探せるようなものを作りたいですね。見栄えを良くするためのデザインもありますけど、私、デザインは情報整理だと思っているので。
加藤 既存のカタログではダメ?
平林 ダメではないですけど、もっと見やすくなったらいいのになって。その手のカタログって情報を整理するところで止まってしまっていて、あともう一歩、美しく整えるということが出来ていない気がして。
加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『スッキリ』『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。
加藤 なんとなく平林さんの考えみたいなものがわかってきた気がしました。そんなムダが嫌いな平林さんの「至福のとき」はいつですか?
平林 やっぱり、仕事が終わって家でお酒を飲んでいる時間ですかね。シャワーを浴びて、そこから2時間半ぐらいほぼ毎日、白ワインを1本飲んで寝ています。
加藤 お酒強いですね(笑)。でも、さっきの話からするとその時間ってムダだったりしないんですか?
平林 ただ飲んでいるのではなくて、飲みながら調べ物をしたり、洗濯ものを畳んだり、溜まりまくったメールの返事を書いたりしています。
加藤 やっぱり同時進行だ(笑)。その時間が1日の区切りなんですね。
平林 そうですね。お酒を楽しむというよりは、何か儀式的なものなのかもしれませんね。