加藤 あえて山田くんと呼ばせてもらうけど、山田くんと知り合ったのは何がきっかけだったんだっけ?
山田 僕と加藤さんのマネージャーさんに共通の知り合いがいたんですよ。そこから加藤さんの番組にも脚本家として呼んでいただいて。そこからですね。
加藤 そうそう、ご飯も食べに行ったよね。
山田 はい。ここ3年ぐらいは定期的にお会いするようになって。いま加藤さんと悪巧みをしているところです(笑)。
加藤 ある企画というか、いろいろと進めているんだよね。山田くんはもともと芸人だけど、どういう経緯で作家になったの?
山田 僕、18歳から芸人をはじめているんですよ。事務所も何度か移っているんですけど、結局どこに行っても裏方というか、作る能力を評価されて。
加藤 芸人は何年ぐらいやっていたの?
山田 8年ぐらいやっていました。26歳ぐらいまでやりましたけど、最終的に一番向いている職業に落ち着いた感じです。
加藤 作家への転向は誰かに見出されたから?
山田 そうですね。恩人と呼べる方が3人いて、1人はダンカンさんなんです。ダンカンさんの劇団に俳優として所属していたんですけど、その時にいつもご飯に連れていって下さったんです。そこでいろいろしゃべらせてもらっていたら、「君、面白いから手伝ってよ」と言われて、脚本を書くようになりました。
加藤 その脚本の評判はどうだったの?
山田 自分で言うのもあれですけど、すごく評判がよくて(笑)。最初に書いた脚本で、若手演出家のコンクールで優秀賞を取りました。その後に紆余曲折あってダンカンさんの劇団を辞めて、自分の劇団を作ったんです。ダンカンさんも了承してくださって。そうしたら、劇団所属のいとうあさこがだんだん売れはじめて。
加藤 そこから映像の脚本も書くように?
山田 映像は僕も大ファンの『アットホーム・ダッド』や『結婚できない男』の尾崎将也さんから「山田くんが興味あるなら、一度やってみたら」と言って頂いたのがきっかけです。でも最初は肌に合わなくて。
加藤 何が合わなかったの?
山田 劇団の脚本は検閲者が自分しかいないんです。でも、ドラマだといろいろな人の意見を聞きながら手直しをする必要がある。それが腑に落ちなくて。
加藤 生意気だね~(笑)。
山田 ずっと演劇を書いてきたからセリフが長いという指摘は納得できたんですけど、内容については修正されたものより、自分のほうが面白いのになって。そういう思い違いをしてました(笑)。ただ未熟だっただけなんですけど。そんな僕を尾崎さんがほんとに温かく指導して下さいました。
加藤 あと1人の恩人は誰?
山田 笑福亭鶴瓶師匠のマネージャーの千佐隆智さんです。
加藤 僕もよく存じあげていますよ。
山田 本人はお名前が出ることを嫌がるんですけど……。ある縁があって、1回だけやったドラマや、舞台の脚本を千佐さんに読んでいただく機会があって。その時に「お前は自分の能力に対して、求めるものが安すぎる」と言われて。「もっと自分の価値を高めることをしなさい」と発破をかけられたんです。そこからもう一度映像の仕事に取り組むようになって、という流れです。千佐さんが、僕のマインドを変えて下さいました。
加藤 『全裸監督』や『新聞記者』につながっていくんだ。配信系と映画や地上波のドラマでは、脚本の書き方も変わるの?
山田能龍 やまだよしたつ 脚本家、演出家、映画監督。1976年生まれ、大阪府出身。劇団・山田ジャパンの主宰として全作品の作・演出を担当。外部も含む数多くの舞台をプロデュースするかたわら、ドラマや映画の執筆、アーティストのライブツアーおよびPVの脚本や演出、ラジオ番組の立ち上げや構成なども行う。近年はNetflixシリーズ『全裸監督』『新聞記者』『ヒヤマケンタロウの妊娠』などの脚本を担当。
山田 構成が違いますね。配信の場合、連続ドラマにおけるどの話まで一気に見させるか、だとか、一定のところまで見たユーザーは最後まで離れない、といった目安となるデータが数字としてあるんです。だから場合によっては、構成上は中盤に置くべき出来事を最初の話数に持ってきたりする。地上波のドラマ以上に続けて見たくなる仕掛けを作るといいますか。
加藤 なるほどね~。山田くんが考える、いまのお客さんが面白いと思うものって何ですか?
山田 ジャンルを問わず、何かが暴かれるということをエンタメとして楽しんでいる気がします。
加藤 映画でもドラマでも、そういう系統の作品は昔からあるよね。やっぱり次の世代に残る普遍性みたいなものも大事だと思うんですよ。
山田 いまの時代にやるべき意義があって、そこに普遍性という背骨があることが大事なのかもしれません。
加藤 脚本を書く時に「時代」を意識することはあるんでしょ?
山田 あります。ただ何が普遍性のもので、何が時代性のものなのか、捉えるのが難しくなってますよね。この先どんなアップデートが待っているのかわからない。普遍性のアップデートって言葉として矛盾してますけど、それくらい混沌としてるなって。
加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。
山田 舞台作品を再演する機会があるのですが、普遍性があると思って作った過去の作品を読み返すと、かなり「違う!」と感じることがありますから。
加藤 今後こんなことをやってみたいという目標はあるの?
山田 抽象的ですが、エンタメの歴史の教科書があるとしたら、テストに出るような作品をあと3本くらい作りたいですね。
加藤 いいね~。そんな山田くんの「至福のとき」は?
山田 日々何かを書いたり、考えたりしているんですけど、脚本やプロットを全部提出して、奇跡的に何もしなくてもいい日というのが、たま~にできたりするんです。ものすごく平凡で恥ずかしいんですけど、その時はサウナとYouTubeと猫と漫画を思いっきり浴びています。
加藤 普段は忙しすぎて、それすらなかなか楽しめないってことだよね。いや~大変だ。そういう日は年に何日ぐらいあるの?
山田 3日ぐらいですね。締め切りは先でも、常に何かしら書いてはいるので。