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加藤 僕も友沢さんの作品は大好きなんですが、そもそも絵はいつから描いているんですか?
友沢 母が漫画家なので、それこそ生まれたときから描いていて、22歳になった今もその延長線上にいる感じですね。油絵も高校生の頃に知人から勧められて、ずっと続けています。
加藤 美術系の高校だったそうですね。先生からはどんな評価を受けていたんですか?
友沢 私、絵を描くときの視野が狭くて、一部分にフォーカスするクセがあるんです。だから、どんな絵でもぬるぬるしちゃって。石膏像の絵もソフトクリームが溶けたみたいになってしまい、先生たちからは「全然形が取れていない」って、よく言われていました。
加藤 視野が狭いとぬるぬるしちゃうんですね。それは面白い!
友沢 ディテールの集合体になってしまうんですね。気になったら細かいシワの1本まで突き詰めずにはいられない性格なんです。だからデッサンもなかなかうまく描けなくて。
加藤 そうか、全体を捉えなきゃいけないから。でも、東京藝術大学には現役合格して。

友沢 自分でも奇跡だなと思いました。周りもちゃんと描ける人ばかりで、入学当初は何を描いてもオリジナルじゃない気がして、ちょっと筆が止まってしまったんです。
加藤 やり尽くされているんじゃないかと。
友沢 そうですね。それに世界を捻じ曲げて描くことに意味を感じなくなってしまって。私の表現や存在は、原始人だった頃の生きるという衝動からかけ離れていっているんじゃないかと、精神的にも参っていました。そんなとき、友達が私の家にたまたまスライムを置いていったんですね。そのスライムを気がついたら顔にかぶっていたんです。
加藤 あはははは! 笑っていいんですか?
友沢 笑ってください(笑)。
加藤 何色のスライムだったんですか?
友沢 黒でした。やわらかくて、きれいだなと思ったら、かぶっていて。目も見えなくなるし、鼻もふさがれて、口の中にも入ってくるんですね。どんどん意識が内側に入っていく感じになって、それがすごく神秘的だったんです。

加藤 何を感じたんですか?
友沢 理性ではなく、原始人のように動物として生きているシンプルな自分がそこにいるような感じがして、とても安心しました。
加藤 心地よかったんだ。
友沢 はい。そのときは「あー楽しかった」で終わったんですけど、何か描こうという気持ちにはなっていたと思います。

加藤 ずっと描いてなかったから。で、描こうと。
友沢 藝大には藝祭というものがありまして、毎年夏までに作品を提出しなきゃいけないんですね。ちょうどその頃、昔から好きだった『ゆきゆきて、神軍』という映画を見返したんです。
加藤 知ってますよ。大変なドキュメンタリー映画です。
友沢 映画を見て、立ち向かうパワーみたいなものを感じると同時に、捻じ曲げられた架空のことではなく、実際に起きた事実が一番強いと感じたんです。そこで、私もスライムをかぶった事実を描いてみようと。
加藤 そこにつながるんですね! それが大学1年生の頃?

友沢こたお ともざわこたお 画家。1999年生まれ、フランス・ボルドー出身。2019年に漫画家である母・友沢ミミヨとのアートユニット「とろろ園」を結成。同年に東京藝術大学にて久米桂一郎賞を受賞。2021年には上野芸友賞受賞。2022年現在は東京藝術大学大学院美術研究科修士課程油画第一研究室に所属。

友沢 そうです。2年生になってからは大学外の展示にも参加するようになり、3年生のときには『スッキリ』に取り上げていただきました。多くの人に絵を見てもらえて、すごい幸せを感じています。絵は自分以上に自分なので、絵が評価されるということは、コアな部分で自分の存在が認められる気がするんです。
加藤 なるほど。じゃあ、友沢さんの「至福のとき」は人から絵を評価してもらったとき?
友沢 もちろんこの上なくうれしい瞬間ですけど、やはり絵に最後の一筆を入れたあとが「至福のとき」かもしれません。
加藤 絵が完成した瞬間ですね。

友沢 少し離れて股の下から完成した絵を見るんです。そうするとうまく形を捉えられず、少し解像度が下がります。例えばVHSの荒れた画面で見る映画に心が揺さぶられたりするように、現実の解像度が下がると心の解像度が上がるんです。その瞬間がすごい気持ちいいですね。
加藤 いい言葉だ。でも、完成した絵に納得できないときは?
友沢 ごくたまにありますけど、そのときは地獄よりも地獄です。
加藤 地獄より地獄!(笑)

加藤浩次 かとうこうじ 芸人・タレント。1969年生まれ、北海道小樽市出身。1989年に山本圭壱と「極楽とんぼ」を結成。コンビとしての活動のほか、『スッキリ』『がっちりマンデー!!』『人生最高レストラン』などでMCを務める。

友沢 でも、なんとかしないといけないので、直します。絵を描くときもそうなんですけど、絵に関することはとても正気ではいられないんです。のめり込む作業なので、どこかに狂気をはらんでいないと病んでしまう。ただ、直すときは冷静に改善点を見つけて、仕上げるようにしています。そこは私のプロ意識だと思います。
加藤 すごいなぁ。プロとして個展も開かれていますよね。
友沢 はい。それでいうと、洗練された空間に自分の絵がダイナミックにかっこよく展示されているところを見るのも「至福のとき」かもしれません。
加藤 海外での個展も予定されているんですよね。世界に羽ばたくアーティストになってください! 今日はありがとうございました。

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