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細野晴臣 ほそのはるおみ 音楽家。1947年生まれ、東京都出身。'69年にエイプリル・フールでデビュー。’70年にはっぴいえんどを結成。'73年からソロ活動を開始、同時にティン・パン・アレーとしても活動。’78年にイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を結成。YMO散開後は、ワールドミュージック、アンビエント・ミュージックを探求、作曲・プロデュースなど多岐にわたり活動。

 ものすごく気にしてるよ、新型コロナウイルスのこと。高齢者だし、リスクが高いからね。知りたいじゃない、コロナってなんなのか。だからいろんな人がいろんなことを言ってるのを、ガセネタまで含めてほとんど見てる。ソースは主にYouTubeだけど。
 この間、これを手に入れたんだ。ドクター中松の発明品で「スーパーメン(SUPER M.E.N.)」。「メン」には「お面」の意味と、口や目や鼻を守るという意味があるんだって。「M」が「Mouth=口」、「E」が「Eye=目」、「N」が「Nose=鼻」を指してて。どうやって着けるんだっけ? こうかな。でもさすがに恥ずかしくて(笑)。着けなくていいや、今日は。
 今までとは違って、帰るとうがいして、手をよく洗うようにしてる。出掛けて帰ってくると、毎日調子が悪いんだ。喉が変な感じがして。うがいすると治るから花粉症のせいなのかもしれないけど、紛らわしくてね。ひょっとすると毎日うっすら感染して、翌日治るっていう感じで生きてるのかもしれない。まあ、どんな専門家の話を聞いても、よく手を洗うことと、免疫の力を高めることが大事だと。今はほかに防ぎようがないからね。

 夢を見てる感じっていうのかな。現実感がないんだ。でも志村けんさんの訃報で急にリアルになっちゃった。知り合いではなかったけど、昔からよく知ってる人じゃない? 毎週観てたからね、『志村でナイト』。
 志村さんには一度だけ、『志村魂』という舞台を観にいった時に挨拶したことがある。そうしたら手ぬぐいをくれてね。津軽三味線が上手な方だったんだ。舞台ではそれを必ず披露してたから。
 志村さんとは行動範囲がちょっと似てて、僕がよく行く麻布十番の中華屋さんに、志村さんもよく来てたんだ。だから2月25日に志村さんが麻布十番のお店で古希のお祝いをしたと聞いて、あの中華屋さんだったのかなって。いや、ほんとにショックだったな。

 バラエティ番組は変わらず観てるけど、日常の笑いっていうのかな。自然に笑えるようなことが今はすごく大事だなと思う。そういう笑いがどこかにないのかなって。
 そうしたら2014年頃にアップした僕の動画を観る人が最近増えててね。アルバム『Heavenly Music』の中の「The House of Blue Lights」をBGMに、僕がひとりで趣味で踊ってる動画をアップしたことがあったんだ、YouTubeに。すっかり忘れてたけど、今になってロンドンでそれを観て、みんな喜んでるんだよね。それが日本にもフィードバックされて、日本の若い人たちもそれを観てる。今、僕が自分の部屋で踊ってると思って観てる人がいっぱいいるわけ。
 さすがに今のこの状況では踊れないけどね。そんな気分にはなれない。でもそういうのを観て、楽しみたいっていう気持ちはよくわかる。特にロックダウンされてるようなロンドンだったらね。あんなおかしなダンスをずっと観てられるって言うんだ。
 東日本大震災の直後にリリースしたアルバム『HoSoNoVa』の時も、今こういう音楽が聴けてホッとするってみんな言ってくれた。今とはだいぶ状況が違うけど、当時のことをよく思い出すよ。あの時も目に見えない放射能の驚異を感じて、本当にパニックだった。家族を全員京都に避難させて、僕が後から追いかけていってね。あの時はガイガーカウンターが手放せなかったな。部屋と事務所にガイガーカウンターを置いて、それをUstreamを通して中継したりして。あれを見てくれてた人もいると思う。でもウイルスは測りようがないんだ。手段がないよね。

 3月11日の後、しばらくの間は音楽を聴きたいと思えなかった。今回もそれは同じで今はなかなか音楽を聴く気になれない。こういう時だからこそ家でもスタジオでも閉じこもって、ミュージシャンは曲を作るべきなのかもしれないけど、僕はもうちょっと落ち着かないと駄目だね。気がちっちゃいから不安でしょうがない。
 今は無理だけど、少し前はTSUTAYAに毎週1回行って、相変わらず古い映画のDVDを借りていた。名作もB級もひっくるめて、観てない映画がいっぱいあるから。例えばこの間はテーマ音楽が大ヒットした『大いなる西部』という西部劇を借りてきた。それからケイリー・グラントのあまり知られてないようなコメディを借りてきたりね。
 それで観出すんだけど、途中でやめちゃうわけ。テレビのニュースのほうがどうしても気になっちゃう。社会的な問題だから遮断することができないんだ。

 真偽のわからないいろんな情報が飛び交ってるでしょう? その信憑性を検証するファクトチェック専門のサイトもいろいろあるけど、それだって信用できないものがあるから頼れるのは自分の勘しかない。
 とりあえずよく手を洗って、アルコール消毒液が切れてきたから、次亜塩素酸ナトリウムを水で薄めて消毒液を作ったりしてる。どこにもないからね。マスクも洗って使ってるけど、消毒液とかマスクとか、なんで供給できないのか不思議でしょうがない。輸入に頼ってきた業界は今反省してると思うよ。
 だから、何かが変わるきっかけにはなるだろうけど、今後どう変わっていくのか? グローバル化が問題だとしても、大きなダメージを受けてるのは小売店や中小企業だから、結局はグローバル企業が残るわけでね。その辺がよくわからないな、僕には。

 なるべく普段通りの生活をしたいというのがあって、いつも通りテレビを1日中つけっぱなしにしてる。あと毎日コーヒーを淹れたりね。おいしい豆をたくさん集めてるから、豆から挽いて。それだけはマメなんだ、豆だけに(笑)。
 最近そこに加わったのがハーブティーを飲むこと。喉が不安だったから、飲んだり、うがいしたりするとよくなると聞いて、特殊なハーブティーを取り寄せることにした。ある感染症の専門家がニームというハーブに抗ウイルス作用があると言っててね。
 ニームはアーユルヴェーダ(インドの伝統医学)の薬木として昔からあるわけ。実は前にも飲んでたことがあるんだけど、ものすごく苦い。だからうがいぐらいがちょうどいいんだ。プロポリスを2、3滴入れてうがいすると、のどが本当にすっきりする。そういう情報は全部集めてるからね。真面目な医学界の情報からトンデモ系の情報まで。

 オリーブの葉のお茶にプロポリスを入れて、飲んだりうがいしたりするといいという話もあって、オリーブの葉も買った。これもまた苦かった。良薬はすべて口に苦いんだ。
 ところがその話の流れでいうと、新型コロナウイルスがイタリアで蔓延したのはオリーブオイルに理由があると言う人がいてね。イブプロフェン(抗炎症薬)が感染の症状を促進するというWHOの見解を受けて、オリーブオイルにもイブプロフェンに似た成分が含まれてるって。そうするとイタリアの人たちはエクストラバージンオイルを普段から生で飲むわけでしょう、健康のために。それが逆効果だったと。
 その後、WHOは訂正したけどね、イブプロフェンが症状を促進することはないって。でも今はいろんな情報が溢れてるから、毎日そのことばかり考えてる。それで音楽を作る暇がないんだ(笑)。

取材・文/門間雄介
(C)2019「NO SMOKING」FILM PARTNERS
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