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 2017年12月。国内映画賞レースの先陣を切る「第42回報知映画賞」で、三島監督の『幼な子われらに生まれ』が監督賞を受賞。並み居る実力派の監督たちがノミネートされたなかでの快挙に、喜びもひとしおだ。
「33歳でNHKを辞めて、映画を撮ると決めたとき、北鎌倉の小津安二郎監督のお墓にお参りに行ったんです。『これから映画の世界を目指しますので、いつか入れてください』と。そして昨日、小津監督の命日に墓前に報告に行ってきました。『なんとか、家族の映画を撮ることができました』と」
 大学時代から自主制作映画を撮っていた三島監督は卒業後、92年にNHKにディレクター職で採用。全国放送デビューは入局半年で制作した45分のドキュメンタリー。「大阪で生まれた女」の歌詞にインスピレーションを得て、大阪で夢を追う人々の葛藤を描いた。新人のデビューとしては異例の速さだと思われる。
「速いのがいいとは思いませんが…企画をバンバン出してたんです。お給料をもらって映像を作れるなんて、それだけで無上の喜びでした」

 その後も『NHKスペシャル』『トップランナー』などドキュメンタリーを数多く制作する。
「上司に企画を出すたびに『なぜ、いまこれをやらなければいけないのか』と言われ続けました」
 なぜ、いま、それなのか。それに答え続けた結果が、実は『幼な子~』にもつながっている。
「原作が書かれた20年前より、いまは離婚も再婚もどちらも身近なスタイルになりつつあるように思います。血のつながりとは? 家族とは? を考える時代になってきた。だからこそ『いま、これをやるべきだ』と思ったんです」
 常に、"いま"を意識している。「いま世の中は不寛容になってる気がします」と監督は言う。
「状況がまだわからなかったり、事実が正しく知らされていない中で、瞬発的に裁くような空気が蔓延していると感じることがあります。もちろん改正されるべき点は改正したほうがいいと思いますが…。なぜそうなっているのか。その感覚はどこからきたのか。そしてその対象となっていることの事実はなんなのか。その中でみんなが何に苦しみ何に喜びを感じるのか。ひたすら考えています」












「NHK時代もいまも『こういうものが当たるだろう』という考えで作品を作ったことは一度もありません。時代を観察し、自分がそれに対してどう感じているのかを掘り下げていく。結局それが時代とつながっていくような気がします。こういう時代だからこそ『理想のかたち』を見たいし『今を如実に表すリアルなもの』を見たい。そのふたつが相まって、普遍的なものに辿りつくのかな、と。でも実際に時代にフィットするかどうかはできてみないとわかりません。映画はコミュニケーション。観客のみなさまがそれをどう受け取ってくださったか、なのかなという気がします」

 映画の世界に飛び込む決心をした一番のきっかけは95年の阪神淡路大震災だ。
「明日死ぬかもしれない、と意識したときに、映画を撮らないで死んでいけるのか…考えた。相談した全員から『会社辞めるのはやめとけ』と言われましたけど(笑)、でも、どこかでたたまないと新しいことができない、と。これはもう生き方の問題ですね。それで、とりあえず2年くらい生きていけるお金を貯めてから、ある晴れた日に辞表を書いて出しました」
 そして、東映京都撮影所などで助監督時代がスタート。それから6年後の09年に、『刺青 匂ひ月のごとく』で監督デビューを果たす。
「ある種エロスの世界なのですが、私はロマンポルノでデビューした監督たちも大好きだったし、まったく問題なかった。それにとにかく撮れば自分の考え方、撮り方、なんらかが表現できる。撮らないことには誰にもわからない。後に三池(崇史)さんからも言われました。『来る仕事には、自分に撮らせたいと思ってくれた相手の思いがある。だから乗っかったほうがいい』と。私もそう思います。その“縁”を信じることが大事なのかなと思いました」










 それが二作目の『しあわせのパン』へとつながっていく。オリジナルで脚本を書き、原作も書いた。そして『繕い裁つ人』や『幼な子』は企画からはじめ、自分のやりたいことに近づけた作品だという。
「でも、自分のやりたいことが100%できたというものはまだできていません。自分の映画をみて、『いいなあ』なんて思ったことないです。もちろんキャスト・スタッフの仕事ぶりはいいなあと思うことはたくさんありますが。映画はいろんな選択の最終形ですから。そのときの監督としての自分の選択が本当に正しかったのか、毎回検証します」

 そんな監督の最新作『ビブリア古書堂の事件手帖』は今年公開。原作物だが、必ずどこかに自分のエッセンスを入れるのが三島流だ。
「原作の中に、自分が惹かれるエッセンスを探し続けます。私が『ビブリア』でやりたいのは、“古本”というテーマでした。古本には前にそれを持っていた全然知らない誰かの思いが入っている。その本がいろんな形で誰かに伝わって、その人の行動を変えていく。それを表現したいと思っています」
 映画には、ここの芝居で観客の感情が揺さぶれないと失敗するというシーンがある。
「そこは外せません。『芝居がよかったらフォーカスが甘くても異音が入っても使うからね!』といってます。だからスタッフも役者も、もちろん私も緊張します(笑)」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 大阪市出身  18 歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後 NHK 入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。最近の代表作に『繕い裁つ人』『少女』、『幼な子われらに生まれ』など。今年、最新作の『ビブリア古書堂の事件手帖』が公開予定。

 三島監督は、報知映画賞監督賞のスピーチでこう語った。
「『幼な子~』は、地味な作品ですので、いろんな局面で難産でしたがどうしても作りたいと思った。家族の話、男と女の話が一番自分の痛い部分だからです。それをやらないと何も始まらないと思いました」
 結果、その作品が監督の世界を広げた。
「これから、どんな時代になるかわかりません。もしかしたら、表現していく上で、いろんな制約が増えたり、自由の幅が狭くなるかもしれません。ですが、先人の皆様が突破口を見つけてきたように、私自身もなんらかの突破口を見つけて表現していきたいと思います。自分を信じずに、でも自分の葛藤には忠実に」
『ビブリア~』も含めて、これから生まれて来る作品が楽しみで仕方がない。

撮影/伊東隆輔 取材・文/中村千晶
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