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 映像、音楽、衣装――映画を形作る要素の全ては、ある一つの目的のために存在する。それは“人”を描くということ。その中心となる役者の選定には細心の注意が払われる。三島監督は、キャスティングの際、役者の本質を見ることに注力する。
「その人のお芝居ももちろんとても重要なんですけど、普段どういうふうに物事を見て、どんな毎日を過ごしている人なのかを知る、もしくは想像することが自分の場合は大事かなと。この人と一緒に作りたいと思ったら、出演している映画はもちろん、舞台に出ているようであれば観に行くようにしています。やっぱり舞台だと生ですから、一瞬の表情や、癖も出ちゃう。そういう意味では、一番その役者さんを感じられますよね」
 舞台での表情、雑誌に載っているインタビュー、テレビの映像。様々な情報を拾いその人の本質を掴む作業を行っていく。
「なので顔合わせや衣装合わせのときなどは、気持ち悪いくらい観察している(笑)。例えば爪がボロボロだったら、ああ爪噛む癖があって、割りと神経質な人なのかな、とか」

 本人も気付かなかった癖を発見することもある。そして、それは演出へとつながっていく。
「その癖を活かしたほうがいいのか、それとも抑えてもらったほうがいいのかを見てます。特に感情が発露する芝居の時などは、その人の癖を引き出すことが効果的な時がある。抑えていたものがむき出しになる。手を震わせるのか、揺らすのか。語尾が変わるのか。何か癖がある人は、それをやってもらったりします」
 癖をも見抜き、その役に合うように調整していく作業。それは、映画によって一人の人間が生まれる瞬間なのかもしれない。『少女』では稲垣吾郎演じる高雄孝夫という男を表現するために、あえて変更した箇所があるという。
「山本美月演じる敦子を高雄が送っていくシーンがあるんですね。本当は車で送るシーンだったんですけど、自転車にしたんです。稲垣さんの場合、車だと普段よく乗っているので、どうしても格好良くなってしまう。でも自転車なら乗り慣れていないだろうから、ある種、格好良く漕げないと思ったんです。その不格好さが、高雄の漕ぎ方とリンクする。それが想像できたので、あえて車から自転車に変えました」










 その一方で、役者の精神状態をシーンに合わせるようにする場合もある。
「イライラして不安を爆発させるシーンで、役者さんがイライラしてるなと思ったら、わざと神経を逆撫でする言葉をかけたりしてしまうこともあります。一度、『もうこの映画の撮影は止めましょう』と言ったこともあります……」
 覚悟を決め、あえて神経を逆撫でするようなことを言う。すべては人間を表現するため。それが揺るぎない信念であり、映画監督としての矜持でもある。
「もちろん、作品にもよると思うんです。また、役者さんによっても変わってきます。それぞれ、全然違う表現者ですから」

 どうすれば、そのキャラクターを形作ることができるのか。それは最大の課題として、常に監督を悩ませ続ける。また、役者側に求めることも少なくはない。分かりやすい芝居はもちろん大切だが、三島監督が求めるのは、よりリアルな芝居。その役になりきり、自身の本質と重ね合わせるような芝居だ。今年、監督の最新作『幼な子われらに生まれ』が公開される。総合商社に務め、再婚した妻とその連れ子と暮らす主人公の男を演じるのは、名優、浅野忠信だ。
「男は前の奥さんとの間にも子供がいて、やはりその連れ子とは愛情の深さが違うんです。それでも4年間、奥さんと連れ子の娘2人と平和に暮らしていた。でも、奥さんとの間に新しい子供ができて、明らかに連れ子の2人よりも新しい子供の方を愛情深く育ててしまうことが分かっていて、本当に産むべきかを悩むんです」
 再婚した妻との間に、新たな生命を授かった男。しかし、その妊娠が判明したときから、家族の均衡が崩れ始める。
「とても繊細な話なんです。だから、感度の高い人に演じてもらいたかった。感度が高くて、そして、傷つきやすく見える人」













「以前、浅野さんのインタビューを読んだ時、何かでとても屈辱的な思いをしたということを語られていて。それはたぶん普通の人からするとそこまで屈辱的なことではなくて。でも、何かを表現する人にとっては、とても屈辱的なことだろうっていうのが分かった。きっと360度、体のすべてがアンテナみたいな敏感な人なんだろう、と。今回の役には、そういう繊細な部分を求めていたので、この役は誰だろうと思ったときに、浅野さんの名前が浮かんできたんです。恐ろしいほどぴったりで、今まで見たことのないお芝居をしてくださったと思います」

 劇中の役に一番近い存在は、監督でも脚本家でもなく、役者自身であると三島監督はいう。その言葉からは、役者という存在に最大級の敬意を持っていることが伝わってくる。
「私も考えていますけど、やはりその存在を体現している人は違う。役者は自分の身体を使って、その人を表現しているわけですから。私の作品の場合、撮影期間はその人として生きてもらっている。例えば何かが落ちていた時に拾う人なのか、拾わない人なのかとか、そういうことを常に考えてくれている人が役者だと信じているので。私にとって役者とは、この世で最も憎たらしくてこの世で最も愛おしい存在(笑)。演技って騙すこと。人にとてつもない嘘をついているわけですから。最高に騙してほしいと毎日楽しみに撮影場所に会いにいくんです」

三島有紀子

三島有紀子 みしま・ゆきこ 大阪市出身  18歳から自主映画を監督・脚本。大学卒業後 NHK 入局。数々のドキュメンタリーを手掛けたのち、映画を作りたいと独立。最近の代表作に『繕い裁つ人』『オヤジファイト』『少女』、 WOWOW ドラマ『硝子の葦』(原作・桜木紫乃)など。浅野忠信主演の最新監督作『幼な子われらに生まれ』が 2017 年に公開予定。

 役者は自分の中にある本質を見つめ、それを役に反映する。しかし、それは監督自身にもいえることなのかもしれない。
「どうして自分がこの作品をやりたいのかなあといつも考えています。自分自身に問いかける。どうしても作りたい。なぜだろう。今生きている自分が何かを感じている訳だから、きっとそれは今の時代が求めていることにつながるんだろうなって、信じているんですけど。だから、作品を普遍的なものにどれだけ近づけられるかではありますが、今の自分がこの作品を撮る必然性、今の時代に撮る必然性は必要だと思っています。『幼な子われらに生まれ』の小説が発表された20年前よりも今のほうがステップ・ファミリーは増えてきている。そして、私自身が今、家族とは? 父性とは? ということをちゃんと考えたい。そこに私の撮る意味があると思いました」

撮影/伊東隆輔 スタイリング/森外 玖水子
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