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 12人の映画監督による映画製作プロジェクト『DIVOC-12(ディボック-トゥエルブ)』では、3名の映画監督がそれぞれ選んだ新人監督を含む4名のチーム単位で映画を制作する。プロジェクトが始動したのは2020年10月。三島監督がチームのリーダーを引き受けたのには2つの理由があった。
「コロナ禍になって、誰もが"本日クランクインです"という言葉を、今後聞けるかどうかわからなかったし、たくさんの作品が撮影中止や延期を強いられる中で、助監督として現場で頑張っている才能ある後輩達がもっと不安に思っているという話をお聞きしたんですね。だから、彼ら彼女らに、もし撮っていただけるチャンスが作れるのなら、ぜひ参加したいと思いました」
 また、後輩に対する気持ちとは別に、自身の作品づくりへの思いもあった。
「今この時期に、世界をじっと見て自分がピュアにそして自由に映画を作れるとしたら、何を作るんだろうという興味がありました。素直に見てみたいと思ったんです」

 こうして完成した三島監督の最新作『よろこびのうた Ode to Joy』は、生活に不安を抱えた年配の女性・冬海と、東北出身の青年・歩の物語だ。映画では冬海を富司純子が、歩を藤原季節が演じている。
「富司さんは、10代の頃からカメラの前に立っていた映画そのものみたいな人です。映画と共に人生があって、マキノ雅弘監督、加藤泰監督、山下耕作監督、降旗康男監督、相米慎二監督……多くの名匠と名作を生んでこられている。撮影前に藤原さんとも話したんです。“我々はそんな映画を知り尽くした人と向き合えるんだから、遠慮しないで一緒にぶつかろう!”と」

 そのための準備も徹底して行った。
「役者さんには、役として背景となる現場を実際に感じてほしいという思いがあります。今回、富司純子さんも冬海の生活圏を見て回られましたし、藤原さんも撮影前に、一人で歩の出身地である南三陸町に行ってくれたんです。役の青年が生まれ育った場所でリアルに感じたものを全部、役として出してくれました。土地や人生を知る時間をきちんと積み上げて、役の人間そのものになってくれたことは、監督として心から幸せだと思います」

『よろこびのうた Ode to Joy』を筆頭に、三島監督のチームは、山嵜晋平監督の『YEN』(蒔田彩珠、中村守里)、齋藤栄美監督の『海にそらごと』(中村ゆり、髙田万作)、加藤拓人監督の『睡眠倶楽部のすすめ』(前田敦子)の4作品が並ぶ。

「この前も話しましたけど、山嵜監督は『繕い裁つ人』のときは制作部で、最重要だった南洋裁店の場所を血眼になって探してきてくれました。齋藤監督は『幼な子われらに生まれ』のときに演出部として一緒に悩んでくれましたし、加藤監督は今回一般公募に応募してきてくれました。全員、映画の技術をちゃんと積み重ねて学んできた人たちです」

「私たちのチームが目指したのは、コロナ禍の中で作家としてあらためて見つめたことをちゃんと映画に落とし込むということでした。あと、1本がそれぞれ短いので、物語の前後を想像してもらえるように作ろうとか、ファーストカットはそれぞれの監督の思想が表れるから大事だよねとか、脚本や編集や撮影現場でも、みんなでワイワイ話しながら作っていきました。全員が作りたいものをピュアに表現していますし、それぞれがきちんと人間を描いた骨太な作品になっていると思います」

三島有紀子

三島有紀子 みしまゆきこ 映画監督。大阪市出身。2017年の『幼な子われらに生まれ』で、第41回モントリオール世界映画祭審査員特別賞、第42回報知映画賞監督賞、第41回山路ふみ子賞作品賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『しあわせのパン』『繕い裁つ人』『少女』『Red』などがある。10月1日に映画製作プロジェクト『DIVOC-12(ディボック-トゥエルブ)』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)が全国で公開。

 三島監督チームの4本に、藤井道人監督チームと上田慎一郎監督チームの作品を合わせて、全部で12本。バラエティに富んだ作品がそろった。
「映画ってこんなに豊かで、世界ってこんなにいろんな見方があるんだなと思ってもらえたらうれしいです。それにきっと今まで観てこなかったタイプの映画と出会うきっかけにもなると思うんです。“こういう映画苦手だな”と思っていた方も『DIVOC-12』を通して、“もっと観てみようかな”と思ってもらえればうれしいですね。最終的にたくさんの方に映画館で映画を楽しんでもらうのが私たちのよろこびですから」

撮影/野呂美帆
スタイリング/谷崎 彩
衣装協力/シューズ¥23,100、BONDI 7(ボンダイ 7)HOKA ONE ONE(ホカ オネオネ)
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