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遠藤憲一

遠藤憲一

撮影/若木信吾
取材・文/中村千晶

遠藤憲一

遠藤憲一

「映画、おもしろかった? 女性にそう言ってもらえると嬉しいなあ」

 強面の悪役として名を馳せ、コミカルな芝居もこなす人気俳優は、役柄のイメージをひょいと翻し、気さくな笑顔で場をなごませた。主演を務める新作『アウト&アウト』は、ハードボイルドな犯罪エンターテインメント。7歳の少女・栞と探偵事務所を営む元ヤクザの矢能を、寡黙に重厚に演じている。重い過去を持つ男の苦みと渋みが、さりげない所作からもにじみ出る。だが、実はこういう役は苦手なのだという。

「チンピラ役はいいんですよ。でも“どしっ”としている役がダメ。この顔だからそう見えるんだろうけど、普段はオレ、チョコチョコと落ち着きない人間なんで。まあ時代劇とかをやりながら、すごく訓練して、多少はできるようになったけど、昔は無駄な動きみたいなのが、もっともっと多かったから」

遠藤憲一

 栞を演じる白鳥玉季との“バディ”ぶりも見事だ。

「撮影中は年がら年中、くっついてた(笑)。彼女はある意味、気遣い屋さんで、手紙や飴くれたりするんだ。でも、ほかの人にもあげてたりして、そのときチラッとこっちを見て『あなただけじゃないの、ごめんね』みたいな顔するのが可愛くて。オレには子どもがいないけど、もしこんな子がいたら可愛くてしょうがなくて、いつもくっついて一緒に出かけてばかりいるよ、きっと」

 親子でもなく、血のつながりもない栞と矢能。二人のやりとりが、対等に描かれているのもおもしろい。

「矢能って冷静に見えて、タガを外してしまう性格を持ってると思う。栞はそこを鋭く見抜いていて、手のひらで転がしてくれてるというか。7歳にして“お母さん”みたいな感覚を持った役なんでしょうね」

 実生活でもマネージャーである夫人との、二人三脚で知られている。

「女房に全部、仕切られてますからね。うまくやる秘訣? 注意されたことを素直に聞く! およそ世の中、女性のほうが正しいからね」

 今年の元旦からお酒をやめたのも、奥さまの功労だそう。

「やめた理由は、はしゃぎすぎて、女房に怒られたから(笑)。昔は飲み屋から現場に行っていたくらいに飲んでたから、相当な変化ですよ」

 高校を中退し、俳優の道に入って35年。いまも勉強中だという。

「セリフを憶えるのがいまだに苦手。ちゃんと勉強してこなかったこともあるんだろうね。学生時代は数学の√とかπとか、『社会に出たら関係ないじゃん!』って思うけど、あれは物事を覚える訓練なんだと、いまではわかる。あのとき休んじゃったぶん、いまになって苦労してる。我慢や努力をすることの大切さを、人より遅れて気づいたのかな」

遠藤憲一

 今回のテーマは「終わりが肝心」。

「終わりも肝心だけど、オレね、真ん中も肝心だと思うんだよね。仕事でもなんでも、ある程度スパンをかけてやるものって、どうしても途中で失速してくる。そこから持ち返して『終わりよければすべてよし』になれるかどうかが、問題だと思う」

 失速を自覚し、そこから盛り返すことが大事だという。

「集中力が欠けてきたり、『まあ、このくらいかな』なんて思い始めたら、『あ、やばいな』ってわかる。そうなったら、心して仕切り直す。自分の心の中でね。そして、もう一回、やり始めと同じくらいの努力をする。人間って、やっぱり飽きちゃう生き物で、維持していくことが難しいんだ。でも、そのことに気づいたの、最近なんだよね。なんでも遅えだろ! って感じだけどね(笑)」

『アウト&アウト』
11月16日(金)全国公開。
犯罪エンターテインメントの同名小説を原作者の木内一裕自らが監督し、実写映画化。小学2年生の少女・栞(白鳥玉季)と二人で探偵事務所を営んでいる元ヤクザの矢能(遠藤憲一)のもとに、1本の依頼の電話が入る。矢能が指定された場所に向かうと依頼人はすでに拳銃で撃たれ、死体となっていた。矢能は迅速に対応するが…。
(配給:ショウゲート)
http://out-and-out.jp/
(C)2017「アウト&アウト」製作委員会

遠藤憲一 えんどうけんいち 俳優。1961年生まれ、東京都出身。1983年のドラマ『壬生の恋歌』(NHK)でデビュー。以降、主役から脇役まで幅広く演じる。近年では『真田丸』『西郷どん』(共にNHK)、『バイプレイヤーズ』(テレ東系)、『ドロ刑 -警視庁捜査三課-』(日テレ系)などに出演。

撮影/若木信吾  取材・文/中村千晶

ヘアメイク/村上まどか スタイリング/中本コーソー(Leinwand) 衣装協力/ジャケット・パンツ nest Robe CONFECT(nest Robe CONFECT 表参道店 03-6438-0717)