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寺島 進

寺島 進

撮影/若木信吾
取材・文/大道絵里子

 男の顔は履歴書だと言うが、これほど顔の印象が変わった人も珍しいのではないか。北野武監督作品の常連俳優として世間から注目され始めてた頃から早幾年。ギラギラした上昇志向がそのまま鋭い眼光に反映されていた時代を過ぎ、今やすっかり穏やかで優しい顔つきに。

「『顔が変ったね』っていうのはよく言われる。昔のギスギス、トゲトゲした感じがなくなったねって。独身時代は仕事のことしか考えてなかったからね。よく言えばストイック。でも、それを人にも求めるから、いつもイライラしてた」

 そんな若き日の葛藤や試行錯誤など、自身の半生を振り返ったのがFILTで連載中の「俺の足跡」だ。今号のテーマは「がんばれ、本!」だが、連載に大幅加筆して、今秋、一冊の本になる。

寺島 進

「この世界でメシが食えるようになったのは40過ぎ。売れなきゃいけねえって、上だけ見て踏ん張って……そんな俺の七転八倒する姿に、読んだ人が元気になってくれるような、そんな本になれば嬉しい」

 寺島自身は、かつてこんな本を読んで元気になっていたそうだ。

「『スパイク・リーの軌跡』とかね。スパイク・リー監督がどうしても映画が作りたいって思いだけ抱えて、いろんな場所に顔を出して出資を募り歩きながら、本当に映画を作るまでのことが書かれた本。なんか俺も勇気をもらった。あとは北野監督の『キッド リターン』って詩集もよく読み返したなぁ。森瑤子さんとか瀬戸内寂聴さんもよく読んでた。昔は本屋に行って、気になる本があれば前書きをチラッと読んで、興味を惹かれたらすぐ買ってた。独身時代はそんな時間があった。今思うと贅沢だよな」

 二児の父として子育て真っ最中の今、よく読む本といえば絵本。『機関車トーマス』を読み聞かせることもある。なんて素敵な光景だろう。

「抑揚つけたり? しないよ!(照れ笑い)。でも書いてある日本語がちょっと硬いなぁってフレーズの時は、自分なりの言葉にして聞かせるときはある」

 そして、本人が一番読む活字は間違いなく台本だ。

「台本もなるべく家では読まないの。家では家の回路にしたいから。移動中とか、喫茶店で覚えて……まぁ、無理矢理入れ込んでるよ。40代の頃は、まだすーっと入る吸収力があったけど、50過ぎたら入っていかない。一番集中できるのは東宝撮影所のレストランかな。昼の2時からたばこが吸えるから、アイスコーヒー頼んで灰皿借りて。そこで台本読むと不思議と集中できる。みんな仕事してる空気感がいいんだよね」

寺島 進

 人生の季節を巡り、今、感じる一番の思いは「感謝」だ。年齢と共に深みを増す人間的な厚みは俳優としての更なる輝きになるに違いない。

「お世話になった師匠や先輩や、そしてカミさんや子どももそうだし、マネージャーや周りのスタッフ、すごくたくさんの人がいてここまでやってこれた。人間、一人じゃ生きていけねえんだよな。まぁ、独身時代が第一期寺島進の俳優人生だとしたら、家族を持って育児全面協力期間の今は第二期。で、子育てが終わった頃、第三期の新時代がやってくるんじゃないかと思ってる。60過ぎたら今よりもっと攻めの姿勢が出てくるんじゃないかなって。でも、気負わずにね。俺、デニス・ホッパーみたいになりたいんだ。第三期寺島進を一番楽しみにしてるのは俺かもしれないね」

寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。7月27日スタートの連続ドラマ『べしゃり暮らし』に上妻潔役で出演。本誌連載「俺の足跡」をまとめた書籍が今秋発売予定。

撮影/若木信吾
取材・文/大道絵里子

ヘアメイク/中山直丈 スタイリング/今井聖子 衣装協力/シャツ(サンフランシスコ<ワンワード>)、パンツ(ブリーチズ/共にハリウッド ランチ マーケット)