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 2020年1月期のドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』の演出を手掛けた山下監督は、続いて4月から新作映画の制作に入る予定だったが、新型コロナウイルスの影響で、撮影の延期が決定してしまう。
「皆さんと一緒だと思うんですけど、ピタッと何もなくなって、いかに自分が人と会う仕事をしていたかを実感しました。ドラマ自体は昨年に撮影を終え、すでに納品済だったのでコロナの影響を受けていないんですけど、ちゃんとみんなで打ち上げができていないのは残念ですよね」
 ドラマは全話を演出。山下監督にとっても初めての経験だった。
「普通は2人か3人体制で撮るので、単純に量が大変でしたね、映画3本分なので。今回、僕もキャストもスタッフもみんな同じ感じで疲れていくんですよ。その一体感は良かった(笑)。話ごとに監督が入れ替わるドラマだと、そうはなりませんから」
 ステイホーム中は、オンライン飲み会にもチャレンジしてみた。
「友達と一回やってみたんですけど、やっぱり直接会って飲んだほうが楽しいですね。人と会わないせいでお酒の量も減りました。あとは、ちょこちょこ書き物をしていたくらいかな。映画もあんまり観る気分じゃなかったし、これだけなにもしないのって、ここ20年くらいなかったですね。性格的なものかもしれないですけど、僕の場合は先のことを考えるよりも、昔のことをけっこう振り返っちゃうんですよね。最近は誘っていただいた企画や依頼された企画に対して、自分がどう応えるかという仕事が多かったんですけど、もともと自主映画からやってきた人間なんで、あの頃は自分たちの中から出てきたもので映画を作ってきたよなと思って、ひねり出そうとしていた2ヵ月でした」
 変化が訪れるであろう映画界に対し、どう対応していくのか。それは山下監督にとって、考えなければいけないことの一つでもある。
「綺麗に元に戻るとは思わないですし、そこにどう対応するのか、どうやって映画を作っていくのかは、まだ見えていないです。映画の内容にしても、前からマスクをしている人はいましたけど、今はもう8割、9割の人がマスクをしていて、じゃあ、エキストラ全員にマスクを付けさせるのかどうかなど、目に見える部分でも考えざるを得ないことはたくさんある。撮影の現場でも、さまざまな問題が出てくるだろうし、雰囲気も変わってくると思います。まずは、次の映画について、どのように撮っていくかの答えを出すことが、僕の中での第一段階ですかね」
 変化の時代においても、映画監督としてのスタンスは変わらない。
「もともと映画界を引っ張っていくタイプじゃないし、映画の最先端をやっているつもりもなくて、どちらかというと、みんなが作っていないような隙間を探すのが好きな人間なんですね。だから、状況が変わったとしても、相変わらず隙間を見つけてやっていくしかないのかなとは思います。コロナの影響を受けて、意識的に自分が変わることはないと思いますけど、でも、きっと今後作るものは“コロナ以降に作られた自分の映画”になるだろうなというのは感じていて、それは自分でも、ちょっと楽しみにしているところがありますね」
山下敦弘 やましたのぶひろ 映画監督。1976年生まれ、愛知県出身。大阪芸術大学の卒業制作で発表した初の長編作『どんてん生活』でゆうばり国際映画祭オフシアター部門にて、グランプリを獲得。その他の主な監督作品に『天然コケッコー』『苦役列車』『もらとりあむタマ子』『味園ユニバース』『オーバー・フェンス』『ぼくのおじさん』『ハード・コア』などがある。2020年には、全12話を演出したドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』が2019年度のギャラクシー奨励賞、マイベストTV賞に選ばれる。現在、ドラマのBlu-ray BOX&DVD BOXも発売中。
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