FILT

 新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けた映画界において、入江監督は真っ先にミニシアターへの支援を呼びかけた。緊急支援を求める「#SaveTheCinema」の呼びかけ人となり、SNSを通じて支援先を紹介。その活動はさまざまなメディアで取り上げられた。
「僕自身、自主映画の『SR サイタマノラッパー』を全国のミニシアターで上映させてもらい、評価されたことで今があるので、今回の状況になってから、当時お世話になった映画館の方々の顔がすぐに浮かんだんです。映画監督をはじめとしたフリーのスタッフも、この後いろいろな窮地に陥るとは思うんですけど、映画館というのは箱を持っているので、先に経済的なピンチが訪れると考えて支援に動いたんです。そうしたら、いろいろなメディアが取り上げてくれて、支援のアクションに繋がっていったというのはありますね」
 進めていた企画が無期限の延期になるなど、自身も大きな影響を受けた入江監督だったが、ミニシアターへの想いは強く、外出自粛中は劇場の声を伝えるためのリモートインタビューも行った。
「規模や成り立ちも地域によって異なるので、具体的なお話を伺いたいと思って、支配人の方々に聞き取りインタビューを行いました。今回の影響で潰れてしまうと、たぶん二度と復活できないので、なんとか応援したいという思いもありましたね。ミニシアターはマイナーだけど良質な映画を上映しているところが多くて、経営的にギリギリでやっているところも少なくない。印象的だったのは“忘れられるのが怖い”というある劇場スタッフさんの言葉です。映画館の存在が休館中に忘れ去られてしまい、もとから無かったかのようになってしまうんじゃないかと」
 それでも、映画を愛する人たちにとって、無くてはならない場所であることは間違いない。
「行けなくなったことで、どれだけ映画館が自分にとって大切な場所だったのか再認識できた人も多いと思うんです。僕らのように、映画に人生を救われた人もいるわけだし、きっとこれから映画で人生が変わる若い子もいるわけじゃないですか。そういう子たちのためにも、僕らは地域に映画館がある意味というものを繰り返し語っていきたいですね」
 そして、映画館で映画を観るという行為が、今まで以上に大きな意味を持つと、入江監督は指摘する。
「体験の強さみたいなものがビフォーコロナとは変わっていくと思います。僕ら作り手もいろいろな面で変わらなければいけないですが」
 最新作『AI崩壊』の撮影を経て、入江監督はあることに気づく。
「主演の大沢たかおさんが“なかなか父親の気持ちになるのが難しい”とおっしゃっていたんですけど、本番当日に娘役の女の子の手を握ったら、その瞬間に“父親の気持ちがわかった気がした”とおっしゃっていたんですね。触れるということは、それだけ人に影響を与えるものなんだなと。そして、コロナ後には人と触れることの意味が前よりも少し強くなって、それこそ手を握るシーンだったり、キスシーンだったりが、より観る人の心を揺さぶるものになる気がするんです。それはこういう時代を生きている僕らならではの感覚で、きっと作っていく上で苦労も多いし、見直すこともたくさんあるんでしょうけど、面白いものが生まれてくるという期待感もありますよね」
入江 悠 いりえゆう 映画監督。1979年生まれ。埼玉県出身。2009年の自主制作映画『SR サイタマノラッパー』で注目を集め、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリ、第50回日本映画監督協会新人賞など多数受賞。その他の主な監督作品に『ジョーカー・ゲーム』『太陽』『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』『ビジランテ』『ギャングース』『AI崩壊』など。2021年夏以降の公開を目指して自主映画を制作中。
CONTENTS