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 2019年の大河ドラマ『いだてん』に力を注いできた大根監督にとって、2020年は来年の準備に充てる年にするつもりだったという。
「大河の仕事を2年くらいやっていたので、今年は脚本を書いたり、企画を練ったりといった準備期間にしようと思っていたんです。だから、もともと長い撮影が入っていなかったので、コロナに関しても、大きな影響は受けていないんですよ。事務所に作業部屋があるんですけど、毎日、家から自転車で作業部屋に通って、夜に帰るという生活を続けていました。人と接触しないように、お籠りからお籠りへの移動ですよね。一人で黙々と作業していると、思った以上に仕事が進むんですよ。飲みにも行かなくなったし、ストイックな日々でした(笑)」
 ドラマやアニメ、CMやミュージックビデオまで、さまざまな企画を手掛ける中で、大根監督にはある思いがあった。
「実は、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』を撮った後くらいから、しばらく映画から離れようと思っていたんです。『モテキ』から、ここまでコンスタントに映画を撮らせてもらっているんですけど、自分の映画制作のペースが早まってきているというか、もう少し時間をかけて撮りたいという思いがありまして。今、51歳で、40代の10年間はほぼ映画を中心にやってきたんですね。50代も、もちろん映画をやりたいという思いはあるんですけど、これまでとはやり方を変えていかなきゃいけないと感じているんです。この状況を予想していたわけじゃないんですけど、邦画界の状況も含め、今は映画を撮るタイミングじゃないなと思い、2、3年かけるつもりで次の準備を進めているところです」
 しばらく映画はお休み。今のところ、来年2021年も、いわゆる大規模な撮影は予定していなかったそうだが…。
「企画自体は進めているので、上手くいけば、2022年、再来年の頭ぐらいからは撮り始めたいなとは思っています。まぁでも、その前に他の企画もいろいろありまして、順次進めています。今は長編アニメを作りつつ、ちょっと問題を起こしてしまった某ミュージシャンというかグループの(笑)、その人たちの復活ドキュメンタリーを作ったりしています。過去に一度作って、すごく大変だったので、もう二度とやるつもりはなかったんですけど、ああいう状況になっちゃうと、これはこれで面白くなってきたな、と(笑)。あの事件のときに、すぐ思いましたからね、“あ、パート2撮らなきゃ!”って。あと先日急にドラマの仕事が決まって、慌てて準備をしているところです」
 コロナ以降は、何が変わっていくのだろうか。大根監督は、少なくとも日本においては、全てに“慣れていく”と指摘する。
「ワクチンができたら、きっと、なかったことのようになるんじゃないですかね。日本人は、良くも悪くも忘れやすい国民性ですから。それでなくとも、人との間隔や接し方みたいなものは慣れていくし、コロナに合わせたルールが当たり前になっていく。ただ、僕らは映画館に人を集めてなんぼの商売なので、“別に映画館に行かなくてもいいじゃん”となってしまうと、ちょっと困ってしまう。映画の魅力って、みんなで一つの画面を共有することだし、映画を観るまでの移動や上映の前後も含めた体験も、魅力の大きな要素ですよね。それは何物にも代えがたい価値だと思うし、たぶん映画でしか救われない人もたくさんいますから」
大根 仁 おおねひとし 映画監督、映像ディレクター。1968年生まれ、東京都出身。『モテキ』『まほろ駅前番外地』など数々のドラマで演出・脚本を担当。2011年に劇場版『モテキ』で映画監督デビュー。その他の主な作品に『恋の渦』『バクマン。』『DENKI GROOVE THE MOVIE?~石野卓球とピエール瀧~』『SCOOP!』『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』などがある。2019年はNHK大河ドラマ『いだてん』に参加。現在、2022年公開予定の長編アニメ映画を制作中。
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