30年前にものすごい人気だった、長渕剛さんのドラマ『とんぼ』が、9月21日に初めてDVD、Blu-ray化された。このドラマは俺にとっても剣友会時代に出演させてもらった思い出深い作品でさァ……。東京は殺陣のグループがたくさんあるんだけど、結構、横のつながりも太かったりするんだよね。俺がいたのは宇仁貫三師匠の「K&U」ってグループだけど、『とんぼ』は「悪童児」ってグループを率いてた國井正廣さんって殺陣師から声がかかって行った現場だった。俺は、ゆーとぴあのピースさんが演じるヤクザの舎弟で、「チンピラその5」くらいの役だったんだけど……現場に行って立ってたら、急に「直」(通称・ピアスの男)っていうセリフのある役になったの。長渕さんだったのか脚本の黒土さんだったのか、誰が言ったのかハッキリ知らないんだけど、「あのチンピラ役の人、気になるね」ってウワサになって、そういうありがたい事態に進展していったらしい。なんにしても、セリフをいただいたことは、ホントに嬉しかったよ。
長渕さん演じる英二に顔をグッと寄せて、「あんたの大事な妹のことを知ってるぜ。いい女になったよな、イヒヒヒヒ」みたいな、イヤな脅し方で絡んでいくチンピラの役でさ(笑)。結局、返り討ちにあって、耳を削がれちゃう展開になっちゃう。当時は街歩いてたら「お前、耳斬られたチンピラだろ!?」って、よく言われたもんだよ。
それまでほとんどセリフなんかしゃべったことなかったから、リハーサルが終わったあと長渕さんに「俺、大丈夫ですか?」って確認しに行ったの。そしたら「全然、大丈夫だよ」って言ってくれて……ホッとして本番に臨めたってことがあったね。あれは良い緊張感だったなぁ。
撮影が終わった後、緑山スタジオでシャワーを浴びながら、先輩たちから、「寺島、よかったぞ」「面白い芝居だったな」とか、たくさん褒めてもらったのも嬉しかったね。今思うとクサい芝居してるんだけどさ。恥ずかしいくらいに、いかにも「THE・悪役」な芝居……でも、そのときはそれが精いっぱいだったんだよな。
その『とんぼ』のDVD発売に関する宣伝みたいなことで、こないだ珍しく長渕剛さんがバラエティ番組に出演しててさ。他にもドラマの“同窓会”的に哀川翔さんとか、仙道敦子さんとか、石倉三郎さんとかが集まって『とんぼ』の思い出話をしてたんだけど、長渕さんが急に俺の話をし始めたんだよ。「ここ何年かで寺島進くんが出てきたときに、本当に僕は涙が出ました。一緒に闘った同志なので『やったー』っていう気持ちになりましたね」「彼は一途でした」なんて、ありがたいことを言っていただいて……いやあ、本当に嬉しかったし……なんか、いろいろと当時の自分を思い出したねぇ。
俺は現場でチンピラになりきろうと、ただただ精一杯やってただけなんだけどさ。でも、ヘタでも未熟でも、一生懸命やってたら誰かが見ててくれてるもんなんだなぁって思ったよ。改めてそう思った。それはこの世界の醍醐味でもあるけど、なにも俺たちの世界に限った話でもなくて、きっとどこにいてもそうなんだろうね。
昔、橋口亮輔監督が映画の舞台挨拶で「ひたむきな姿は常に美しい。人間はひたむきさがないと汚れてしまう」みたいなお話をしていて、俺、その言葉がすごく印象に残ったの。なんか自戒も込めて刺さったんだよね。それで言うと、『とんぼ』の頃の俺はひたむきだったんだろうなァ……。それ以前に、ひたむきかどうかなんて意識すらしてなかったと思う。
何年か前、ある映画の打ち上げで竜雷太さんと同席させていただいたとき、竜さんにこんな言葉をいただいたんだ。「寺島くん、頑張ってやってるね~。君は斬られ役の星だからね」って。竜さん、剣友会時代の俺が『太陽にほえろ!』の現場でチンピラAみたいな役をよくやってたことを覚えててくれたんだね。“星”だなんておこがましいけど、でも気づけば俳優としてお仕事をいただけるようになって、今は、『再捜査刑事片岡悠介』シリーズとか、『駐在刑事』シリーズ、『ドクター彦次郎』シリーズとか、主演もやらせてもらうようになって……。
寺島 進 てらじますすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した『ア・ホーマンス』でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。
俺がかつてスタントをやってた“スターさん側”になったと思ってるわけじゃないよ? そんなに調子に乗ってねェよ! でもね、ここにきていろいろ思うことはある。時代劇が斜陽になって、家族を守るためにこの世界を辞めて違う仕事についた先輩なんて何人もいるし、病気で亡くなった人、殺陣中の事故で亡くなった人もいる。この世界に残ってる人は本当に少ないよ。そんな中で、こうやって続けてこられたのは本当に運がよかったと思うし、いろんな出会いに恵まれて導かれた、奇跡に近いことなんじゃないかなって……。だからこそ自分が主役をやるときは、精一杯やらせてもらう。来月の1月から『駐在刑事』の新しいシーズンが始まります。ひたむきさ、初心を忘れずに取り組んでいきたいね。