北野武監督に出会ったおかげで、たくさんの才能あるステキな監督と出会えたのは間違いない。俺が初主演した映画『おかえり』の篠崎誠監督なんて、まだ篠崎さんが映画のライターさんで、北野作品の取材で俺のインタビューに来たことがきっかけで知り合ったの。取材の後に誘ってくれて一緒に飲んだんだよね。その帰り道に、「自主映画を撮りたいんですけど、そのときは出てもらえますか？」って言ってくれてさ。「じゃあ一緒にやろうよ！」ってなったのが『おかえり』につながった。

　あのころ、しのやん（篠崎監督）とは、吉祥寺のデニーズに集まって、内容についてああでもないこうでもないってよく話し合ってたなぁ。お互い煮詰まって喧嘩になりそうだったこともあった……『おかえり』って夫婦の話なんだ。心の病を患ってしまった妻に戸惑いながらも、なんとか受け入れようとする夫を俺が演じていて。男と女の話だから、恋愛観や女性観をどう持っているかによって「こういうときはこうするんじゃないか」って行動も変わるじゃない。

　俺と篠崎監督の考え方も同じではないから、そういう細かい部分の意見のすり合わせとかね。結局、半年くらいかけて準備したと思う。

　そう思うと青春だよなぁ！　まぁカネはないけど、時間はあったからできたことだよね。北野作品の時系列で言うと、『ソナチネ』と『みんな～やってるか！』の間くらいのとき。

　でもいざ撮影に入ると、チームワークはばっちりだったよ。スタッフも役者もファミリーみたいでね。低予算だし、舞台となる家もしのやんの知り合いの家を借りてた気がする（笑）。

　よく覚えてるのは、監督が撮るのに夢中になりすぎちゃうこと。昼飯を挟まないでやろうとするから「ここで休憩しないとスタッフ持たないよ」と、休憩を入れさせたり、手と手をつなぐアップを撮りたいっていうから「そんなクサイことやりたくないよ」って言ったのは覚えてるな（笑）。俺もチンピラじゃない普通の男の役なんてほとんどやったことがないし、難しかったよね。

　でもその甲斐あってたけしさんが審査員長を務める東スポ映画大賞で新人賞をいただいて。それは俺がもらう俳優としての初めての賞だったの。嬉しかったねえ。北野監督は二回も見てくれたらしくて、内容にもすごく感心してた。女性からも評判良くて……え、妻を受け入れるシーンに俺のロマンチストな部分が垣間見えた？　ま、いくつになっても男ってのは、女性を見守る存在でありたいんじゃない？（照れる）。そういや、絵手紙を描く番組に出たとき、鑑定の先生が俺の絵を見て「この人は真面目でロマンチストです」って。司会のダウンタウンの浜ちゃんは「ただのやくざや！」って言ってたけど（笑）。

　『おかえり』は海外の映画祭でも上映されて、ベルリン国際映画祭最優秀新人監督賞、ギリシャのテサロニキ国際映画祭最優秀監督賞、カナダのモントリオール国際映画祭国際批評家連盟賞とか、たくさんの賞もいただいたんだよね。そのおかげで俺もいろいろな海外の映画祭を体験することができた。

　そこでもたくさんの素晴らしい出会いに恵まれて……。ロンドン映画祭では是枝裕和監督に出会った。是枝さんはデビュー作の『幻の光』で来てたんだけど、その映画がすっごくよくってさ。俺、その感想を伝えたくて監督をつかまえて話を聞いてもらったんだけど、しっかり俺の感じたことを受け取ってくれてね。そんな交流があって二作目の『ワンダフルライフ』に呼んでもらったの。

　今度はその『ワンダフルライフ』がフランスのナント映画祭や、アルゼンチンのブエノスアイレス映画祭でグランプリを獲った。俺もブエノスアイレスに行かせてもらったんだけど、日本からはトランジットも入れたら48時間くらいかかるのよ。もう、着いてからは時差ボケでボ～っとしてたんだけど、ふと見ると、俺よりもボ～～～っとしてるアジア人がいるわけ。背の小さい男でさ。俺も面白くなってさ、「どっから来たんだよ」と聞いたら「中国から来た」って。「どれくらいかかったんだよ」、「52時間……」とか言いながらヨロヨロしてたよ。そんな交流を持った彼は……数年後、ベネチア映画祭で金獅子賞を獲るジャ・ジャンクーだった。

　今や大人気監督になってさ！　「俺のこと使って」って言っとけばよかったよ。思えばいろんなハプニングもあったなぁ。あれは第一回目の釜山映画祭でのこと。エジプト映画祭から送られて来るはずの『おかえり』のフィルムが届かないって事件が発生したの。このとき俺は日本にいたんだけど、現地入りしてる篠崎監督から俺のアパートに電話がかかってきてさ。「もし時間空いてたら、フィルム持ってきてくれない？」って。なんせひまだからさ。交通費と宿泊費出してくれるっていうから急いで持って行ったよ。ギリギリ上映に間に合って、せっかくだから舞台挨拶も出たんだけど、監督が「今、主演俳優が日本からフィルム持ってきました」って言ったら、うお～ってすごい盛り上がってね（笑）。こういうハプニングも“祭”って感じで面白いんだ。