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寺島進

寺島進

寺島進

撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子
取材協力/ホテル日航アリビラ

東京は深川、畳屋の次男坊として生まれ育った

生粋の江戸っ子、寺島進が和物の“粋”を語ります。

今回のテーマ「畳の張り替え」。
 俺は実家が畳屋だから、畳の手入れはマメにするね。畳って擦り切れたり色が変わったりするでしょ? だから敷きっぱなしじゃなくて定期的にメンテナンスするもんなの。俺、和食の店に行ったら、どうしても畳に目が行っちゃうんだけど、青々した畳は気持ちがいい! 新しいとイグサのいい香りもする。そういう店は全体的にピシッとしてて嬉しくなるよ。逆に畳が日焼けしてると……そこはある程度カネかけてやってほしいよな。そうしないと畳屋さんも困っちゃうじゃん。

 そもそも畳って「畳床」っていう芯に、「畳表」っていうイグサのござの部分を張って、ヘリを縫い付けてできてる。畳表は両面使えるから、擦り切れても裏返すとまたきれいな面が出てくるの。だから「裏返し」って言って畳表を裏返して畳床に張り直したり、両面使うと「表替え」って言って、畳表をさら(新しい)のゴザにして畳床に張り替えたりする。

畳の張り替えの

手伝いに

よく行ってた。

 昔は年に一回は「裏返し」や「表替え」をやったもんだよ。年の瀬は大掃除をするでしょ? そのときにあわせて畳をきれいにして新年を迎える人も多かった。

 だから実家の畳屋も毎年11月くらいから忙しくなってたね。俺も小学生のころから駆り出されて、よく畳の張り替えの手伝いに行ってたなぁ。確か九州場所くらいから忙しくなるの。いまだに九州場所を見ると、そろそろ年の瀬だな……って思うもん。

 この手伝いが結構大変なんだよ。畳を張り替えてくれっていう人がいると、そこの家に行って、和室から畳を運び出してトラックに積んで持って帰るところから始めるわけ。和室にタンスとかの大きな家具が置いてあったら全部運び出さなきゃいけないし、軽い引っ越し屋さんみたいなもんなんだよ。和室もキレイに片づけてる行儀のいい家ばかりじゃなくて、なかには『これ、どっから手をつけんの?』ってくらい散らかしっぱなしの家もあった。俺とオヤジで、部屋の片付けから始めて、ようやく運び出したこともあったよ。

 新しく張り替えたら、またお客さんの家に持って行って敷きこむんだけど、せっかくの新しい畳だから擦ったりしたらダメじゃん。もとの場所に家具を入れる時も、畳と家具の間に新聞紙とか段ボールをかましてスーッと運んだり、畳を持って行くときより気を遣うわけよ。もうピアノがあると最悪だったね!なんで和室にピアノなんだよって。あとは団地。昔の団地って4階建てで、全部が階段でしょう? 4階まで畳を担いで行くときは腕が切れそうだった。俺の腰が悪いのも、あれが原因じゃない?(笑)。いやぁ、よく手伝った。手伝わなきゃしょうがなかった。

寺島進

仕事の合間に

食べた飯が

うまかったなぁ。

 この世界に入ってからも、俺が21、2歳のときかなあ、仕事もなくてヒマだから独り暮らしの部屋にいたら、オヤジから電話がかかってきて「進、手伝ってくれよ」って泣きが入ったの。そのころ畳屋が忙しくて、畳のヘリをガッチャンガッチャンって縫う機械を100万くらいかけて買ったんだよね。「一枚、500円出す」っていうから『10枚やったら5000円か、これはいいバイトになるな』と思って、すげえ気合入れて、一週間くらい実家住み込みでバイトしたよ(笑)。あの頃、仕事の合間に食べた飯がうまかったなぁ……。当時の俺はロクなもん食ってなかったから、こんなに実家の飯ってうめえんだなって。当たり前だけどタダだしね(笑)。

 今、うちが畳の張り替えをするときは近所の畳屋さんにお願いしているけど、やっぱオヤジの仕事を見てるから、もう~、俺、うるさい客だよ!ヘリの返しの荒さとか、ちゃんと平らになってるかどうかも細かく見てさ。俺、小学生から21まで畳屋でバイトしてた元プロみたいなもんだし、俺のバイト歴、畳屋が一番長いんだから誤魔化せないよ? 横着する職人は許せない。

 でも畳屋さんが大変だから和室には物を置かないし、今年の年末は手間がかかるだけであんまりカネにならない「裏返し」より、売り上げのいい「表替え」を頼もうと思ってるし、畳屋さんの気持ちが分かるいい客でもあると思う(笑)。

寺島進

 今はマンションの間取りを見ても和室がある家が少なくなってるけど、畳ってもっと見直されていいと思うんだよなぁ。畳の匂いって日本人には落ち着く効果があると思うし、子どもがいる家庭には絶対にいいと思う。フローリングで走って転んだりするとケガしやすいけど、畳の上なら柔らかいからケガしにくいもんね。柔道なんて畳の上で試合やってるじゃない。そもそも「フローリング」なんてオシャレに言ってるけど、俺からしたら「板の間」だから。昔は貧乏な家は板の間にござで、お金持ちの家にだけ畳があったんだよ? フローリングのよさが全然分からない。本音を言うと、板の間は廊下だけで、あとは全部畳でいいと思ってるもん。みんなもっと和室に注目しろ!ただ……床暖はいいね。床暖のある板の間は許す(笑)。

寺島進

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子
取材協力/ホテル日航アリビラ