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寺島進

寺島進

寺島進

撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子
取材協力/こましょう(祖師ヶ谷大蔵)

東京は深川、畳屋の次男坊として生まれ育った

生粋の江戸っ子、寺島進が和物の“粋”を語ります。

今回のテーマは「雪駄」。
 雪駄って履かない人にとっちゃ特別感があるものかもしれないけど、俺にしたら、近所のどこに行っても当たり前のようにあった履物なんだよね。

 実家が下町ってこともあるけど、うちのおやじが畳屋だったことも大きいかも知れない。おやじもそうだけど、畳屋の職人って昔は普段から足袋を履く人が多かった。足袋を履いて、そのまま当然のように雪駄を履く。

 畳屋ってさ、畳を預かりに行ったり敷きに行ったりするときに、お客さんの家の和室の家具とかも移動させなきゃいけないから、ちょっとした引っ越し屋みたいな作業もやるんだよ。いろんなもんをかかえて玄関を出たり入ったりしなくちゃいけないから、雪駄だと便利でしょ? パッと脱いでパッと履ける。それで雪駄を履いてる人が多かったんだよね。

身近だからこその

愛着の強さは

あるかもしれない。

 だから、俺にとって日常のものって感じ。前回の「巾着袋」みたいに、粋な持ち方をしている大人を見て『あ~、かっこいい、俺も持ちたい』って憧れるようなもんではなかったな。でも身近だからこその愛着の強さみたいなもんはあるのかもしれないね。

 俺のお気に入り? う~ん……まぁ最近はいろんな素材の雪駄が出てるけど、やっぱり鼻緒が全部白い雪駄って粋だよね! 鼻緒は白でも、前緒(足の親指と人差し指で挟む部分)に色がついてるやつが多くて、全部真っ白ってあんまりないんだよ。でも、夏に浴衣を着たときなんか、鼻緒が真っ白の雪駄を履いたら、そりゃあかっこいいんだから。俺が雪駄好きなのを知ってて、そういう粋な雪駄をファンの人が送ってくれたこともあった。ヘビ柄の雪駄ももらったな。それは今でも履いてるよ。俺、年中履いてるから。花火大会やお祭りに行くときは浴衣に雪駄だし、冬でも寒けりゃ足袋とか靴下を履いて雪駄。俺の結婚式は2月で寒かったんだけど、そんときも紋付き袴に足袋を履いて雪駄だったよ。

「粋な履き方」ってのも、誰に教えてもらったわけでもなく、物心ついたときには知ってたなぁ。ま、なんでも好きに履きゃあいいんだけど、やっぱり様になる履き方があるわけよ。意外と知らない人が多いみたいなんだけど、雪駄は草履の大きさと足の大きさがジャストサイズだと、ちょっと合ってないの。それだと大きいんだ。まず、足の親指と人差し指を、鼻緒の前緒にあんまり入れずに、ひっかけるようにして履く。で、かかとは草履からちょっとハミ出すように履くの。これが粋な履き方ね。気持ちよくかかとがあたる部分があるから、そこを見つけて。

寺島進

同じ雪駄でも

人によって足音が

違うから面白い。

 俺の周りはみんな当たり前のようにそうやって履いてたけど、それが「粋な履き方」ってことになってるらしい。足の指の股が痛くて雪駄や草履が苦手だって人いるけど、一回、この履きかたを試してみたら? あ、でもちょうど足の親指と人差し指の間に冷え性のツボがあるから、刺激すると健康になるらしいよ(笑)。女の人が草履を履く場合はちゃんと指を入れて履くほうがいいかもしれないな。

 あと、俺にとって雪駄といえば「音」なんだよなぁ。昔は、かかとの部分が減らないように、ほとんどの雪駄のかかとに鉄(ベタガネ)がついてて、それが歩くたびにカシャンカシャン音を立てた。

 俺も、その鉄の音に憧れてさぁ。10代の前半くらいかなぁ「やっぱ、この音がいいんだよ」なんて言いながら、カシャンカシャン歩いて喜んでた時代もあったわ……。でも、かかとに鉄が入ってると、すげえ滑るんだよ(笑)。今の舗装された道、特に雨の日なんか滑って滑って危なくてしょうがない。だから「危ない、うるさい、道に傷がつく」とかいろんな理由が重なって、いつの間にか鉄の雪駄は廃れたねえ。今はよっぽどこだわりの店でしかそういう雪駄は売ってない。

 でもベタガネに限らず、履き方とか歩き方のクセで、同じ雪駄でも人によってまるっきり足音が違うから面白いんだよ。

寺島進

 俺なんか京都で撮影のとき、朝はいつも雪駄を履いて廊下を早歩きしながら支度部屋に向かうんだけど、結髪さんの部屋から廊下は見えないのに俺の歩く音だけ聞いて「寺さんきたよ、寺さんきたよ!」って分かってる(笑)。俺に限らず、雪駄の音で誰が来たかが分かるんだって。

 だからまぁ、かっこつけるわけじゃないけど、俺の中で雪駄は一つの「楽器」みたいなもんだな。

 最近は腰が悪いから、実は今度、体に負担のかからないクッションのいい雪駄を買おうかと思ってんの。さぁそれはどんな音色を奏でるのか……自分でも楽しみだね。

寺島進

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子
取材協力/こましょう(祖師ヶ谷大蔵)