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寺島進

寺島進

寺島進

撮影/伊東隆輔
取材・文/大道絵里子
取材協力/ホテル日航アリビラ

東京は深川、畳屋の次男坊として生まれ育った

生粋の江戸っ子、寺島進が和物の“粋”を語ります。

今回のテーマは「男の着物」。
 着物は仕事で着ることが多いけど、プライベートでもわりと着る機会があるね。

 夏は浴衣。10代のころから花火大会だっていうと浴衣を着て、お祭りだっていうと浴衣を着て、なにかにつけて浴衣はよく着たもんだよ。だからまぁ、似合うかどうかは別にして、ちょっと粋な着方にはこだわりがあるかな。男の浴衣の場合、女性みたいに丈を調整する「おはしょり」みたいな作業はなくて、羽織って合わせて、帯を締めるだけでいいから着るのは簡単なんだけど、シンプルだからこそ、ちょっとした着方のコツが大きな差になる。着慣れてない感じの若い男が着てると、何だかだらしない感じになってるのをよく見かけるじゃん。あれ、合わせ方と帯の位置が違うんだよな。だからどんどん着崩れて、腰から下がスカートみたいに広がって台形みたいな形になっちゃうの。あれはだらしなく見えてカッコ悪いね。

上半身はゆったり

気味にするくらいが

ちょうどいいの

 でも、着崩れないように、襟元を詰めてキチキチに合わせたら粋じゃない。

 男の場合は、上半身はゆったり気味にして背中に余裕があるくらいがちょうどいいの。衿の合わせは少し緩めにして、でも、女性みたいに衿を後ろに抜くんじゃなくて首に沿わせながら、前に抜くっていうか縦に開くのがコツだね。だから胸元が見えるのはいいんだけど、うなじとか肩のあたりが見えるのはかっこ悪いからね。帯の位置は「正解」のラインがある。慣れてない人はどうしてもベルト感覚でやっちゃうから、ウエストを基準にして位置を合わせがちなんだけど、それじゃダメ。

 さっき、男の着付けは前で合わせて帯を締めるだけでいいって言ったけど、体形の補正はしたほうがいいな。特に俺みたいに痩せてると腹回りにタオルとかの"腹ぶとん"を入れて調整しないと、ちょっと様にならない。"腹ぶとん"をおへその辺りに入れたあと、おへそとおちんちんの間くらいに前帯を通して、腰骨を通して、後ろが上がる感じにして結ぶの。そうすると様になる。

 帯のラインは確実に「これ!」ってもんがあるから、それを見つけてほしいね。正解のラインが一番粋に見えるし、しかも一番着崩れにくいから。

 そういうことを、俺は先輩の松方弘樹さんから教えてもらったんだ。松方さんは着物姿が本当に粋だったし、着物のことだけじゃなくて、いろんなことに精通しててすごいんだよ。時代劇での所作とか、粋な身のこなし、カツラのかぶり方とか、笠のつけ方まで、よく教えてもらったなぁ……。笠って、あの「笠地蔵」みたいな三角の「すげ笠」とか、旅の途中にかぶる「木枯らし紋次郎」みたいな「三度笠」とか、いろんな形があるの。

寺島進

ワラジは、

粋な履き方を

自分で研究した。

 全部帽子みたいに紐がついてるから、結び方もいろいろあるんだよ。それを教えてもらったりね。あとはワラジの履き方も教えてもらったなぁ。

 ワラジは、俺、粋な履き方を自分ですごい研究したもんね。ワラジを履くこと自体は、一番初めは十代のころだと思うけど、鳶をやってる先輩に「こうやって履くんだぞ」って教えてもらったの。お祭りのときかなんかだったのかな? もう忘れちゃったけどさ。それでなんとなく予備知識はあったんだけど、日常的に履かないから忘れるじゃない。それが二十代前半、剣友会のころに時代劇の仕事が入って、ワラジを履くことになって……。

 ワラジなんて今じゃ持ち道具さんが履かせてくれるんだろうけど、当時の俺らは全部自分で履かなきゃいけなかった。

 そこでまた先輩に結び方の基本を教えてもらってね。でもその基本の形で履くと、結んだあとの紐がポローンと垂れてきてカッコ悪いんだよ。それが嫌で研究したの。

 その結果、前の「巾着」の回で説明した粋な持ち方みたいに、輪っかが大きなリボン結びにした後、垂れてる紐をねじり鉢巻きみたいにして、ピッと上向きに留めるやり方を編み出した。これがすごく粋。だから、自慢じゃないけど、俺のワラジの履き方はちょっとかっこいいよ(笑)。

寺島進

 もう30年くらい前の話だけど、今でもあんまり紐が長いと切って自分で調整することはあるな。

 ま、若いころの俺が出てる時代劇とか、忍者をやってる作品を見る機会があったら、ぜひワラジにも注目してほしいね。逆に俺が後輩に教えること? そりゃまぁ、教えてくれって言われれば教えてやるけど、最近はそんなこと言ってくる後輩はいない。先輩に聞いちゃいけないって遠慮してるのか、俺を怖がってるのか、興味がねぇのか分かんねぇけどさ(笑)。

 ま、でもみんな自分で生み出していけばいいんじゃない? 俺もそうだったけど、何事もどうやれば粋になるかを考えて、自分なりに工夫して生み出していくのも面白いと思うよ。それが自分だけのオリジナリティになるから。

寺島進

寺島進 てらじま・すすむ 東京都出身。俳優・松田優作が監督した「ア・ホーマンス」でデビュー後、北野武作品で活躍の場を広げる。映画のフィールドからテレビドラマの世界でもその顔は知られるように。

撮影/伊東隆輔 取材・文/大道絵里子
取材協力/ホテル日航アリビラ