撮影/Jan Buus
取材・文/中村千晶
撮影/Jan Buus
取材・文/中村千晶
ハリウッド大作から日本のインディーズ作品まで悠々と、自在に役を乗りこなす浅野忠信。三島有紀子監督の新作『幼な子われらに生まれ』では、普通のサラリーマン・信を演じている。台本をベースにしつつ、監督が取り入れたエチュードの要素を楽しんで演じたという。
「特に覚えているのは、元妻役の寺島しのぶさんとケンカのシーン。セリフも動きもほぼ即興です。結局、役者が役にどこまでなりきっているか。それができていれば、躊躇することなんて一個もない」
信は再婚相手の妻と彼女の連れ子である二人の娘の“よきパパ”であろうとする。だが妻が妊娠したことで、家族に軋みが生まれていく。
「台本を何度も読み込んでわかったんです。一見これは信が『苦境を乗り越えて、父親らしく変わっていく』話に思えるけど、そうじゃない。信が変わるんじゃない、信に関わる人たちが変わっていく話だ、と」
信はどうしようもなく“変われない男”なのだと分析する。
「頑張っているのにうまくいかないことが多く、だから『いいお父さんになりたい』という憧れが強くなる。でも、『いいお父さん』って頑張ってなるものじゃない。それに頑張ってる人って、一見頼りになるようで『実はこいつが一番邪魔だったんじゃ?』ってことがある。そういう男だったんですよ、信は(笑)。それを妻や娘たちは体で感じて、違和感を憶えていく。結果、信によって彼女たちのほうが変わるんです」
自身も二児の父である浅野が思う“いい父親”とはなんだろうか。
「以前出演した『水の女』という映画に、『すべては女の人が決めていい。でも神がいるかいないかだけは、男が決めることだ』というセリフがあって『大それた言葉だけど、正しいな』と思ったんです。なにか事件が起きたときに、強く対処できるのはやっぱり男ですから」
三島監督は「父性とは、尺度を示せること」と言っていた。
「同感です。父が『今日は学校に行かなくてよし!』と言ったら、理由はわからなくても、行かなくていいわけです。黒いものも白くなるというか、父親とはそういう力を持っている気がします。でも僕はどちらかというと母にそれをやってもらっていました。学校を休んで、そのままドライブに行ったり」
5年ほど前、自身の家族にも大きな発見があった。
「NHKの番組の取材で、自分にアメリカ人の祖父がいるとわかったんです。驚きました。絶対的な自分を作っているのは家族だけど、明かされていないこともいっぱいあるんだな、と。家族って、血のつながりって不思議だなって」
そして、自身の父からは、この世界で生き残っていく術を学んだ。
「父は僕に仕事のきっかけをくれた人で、今は一緒に会社をやっている近い存在。父からは『カッコつける』ことよりも『カッコつかないことでもやらないとどうにもならない』ことを教わったと思います」
浅野の子どもたちも同じ世界に飛び込みそうだ。先ごろ娘のSUMIREさん、息子HIMIさんと広告で親子共演を果たした。
「僕は、勉強はできないし、常識的なことは教えられない。でも世の中がとても広いということは知ってるから、子どもたちにはそれを伝えるくらいかな。でも、彼らは自分の道は自分で決めていますよ。両親とも結構ぶっ飛んでますからね。僕らを見て『こいつらに任せているとやばい』って思ってるのかも(笑)。いまの世の中、家族とは簡単な一辺倒な価値観じゃない。それは僕自身が一番、感じている。他の人がどう思うかわからないし、家族それぞれの思いもあるだろうけど、『自分はこれでハッピーだから、いっか』って思っています」
『幼な子われらに生まれ』
8月26日(土)全国公開
21年前に重松清氏が書き上げた原作小説を三島有紀子監督が映像化。良きパパを装いながらも妻・奈苗(田中麗奈)の連れ子とうまくいかず、悶々とした日々を過ごすサラリーマンの田中信(浅野忠信)。信は、3ヵ月に1回、元妻の友佳(寺島しのぶ)との間にもうけた実の娘に会うことを楽しみにしていた。しかしある日奈苗の妊娠が発覚し、血のつながらない長女との関係が悪化してしまう。「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ!」という長女の叫びを聞いた信は、奈苗の元夫であり、長女の本当の父親である沢田(宮藤官九郎)に会わせる約束をする。
(配給:ファントム・フィルム)
http://osanago-movie.com/
(C)「幼な子われらに生まれ」製作委員会
浅野忠信 あさのただのぶ 1973年11月27日生まれ、神奈川県出身。1990年に『バタアシ金魚』でスクリーンデビュー。以降、ジャンルを問わず様々な作品に参加し、2008年に出演した『MONGOL』は第80回米アカデミー賞で外国語映画賞にノミネート。『マイティ・ソー』、『バトルシップ』、『47RONIN』などのハリウッド作品にも出演。近年は、深田 晃司監督の『淵に立つ』や、マーティン・スコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』、園子温監督の『新宿スワンII』などに出演。公開待機作に、『THE OUTSIDER』(2017年公開予定)、『星くず兄弟の新たな伝説』(2018年公開予定)などがある。
撮影/Jan Buus 取材・文/中村千晶