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マキタスポーツ

マキタスポーツ

撮影/Jan Buus
取材・文/鈴木宏和

マキタスポーツ

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 お笑い芸人、役者、文筆家など数々の顔を持つ異才、マキタスポーツ。“作詞作曲モノマネ”などの音楽研究/批評でも知られる彼はまたバンドのフロントマンでもある。しかも、ロックバンド。しかも、ヴィジュアル系。

「もともとはオーバーグラウンドで大活躍していたヴィジュアル系をからかいたくて、自分のバンドのマキタ学級でやっていたことなんです。様式やサウンドを踏襲して、彼らが歌わないような詞で歌うっていう。それがテレビ番組の企画をきっかけにパーマネントな形になったので、中途半端はつまらないと思っていろいろ調べてみたら、ヴィジュアル系って面白いんですよ。ファンのニーズを徹底的に吸い上げてカスタマイズして、隅々まで楽しめるものを構築している。どこかホスト業界にも似ていて、楽しませることにおいて、非常に洗練されているんです」

 そう、マキタスポーツが自身の表現の核に据えているのは、ほかならぬ音楽なのだ。FLY OR DIEと名付けられたヴィジュアル系バンドは、今年1月にファーストアルバム『矛と盾』をリリース。そこで彼は、ソングライター/プレイヤー/ボーカリストとしての高いスキルを存分に発揮し、あらゆるジャンルやスタイルを網羅したハイセンスなポップミュージックを提示している。

マキタスポーツ

「嘘ではなく『紅白』を目指したいです。ゴールデンボンバーも何回も出てらっしゃいますし、SEKAI NO OWARIにしても、ゲスの極み…は置いておきましょうか(笑)。ああいう人たちは、楽しむことに重きを置いたひとつの形かなと思います。僕はヴィジュアル系の閉鎖的な部分が嫌なので、その壁を取り払いたい。46歳のおっさんが、ギミックが乗った上でやることで違和感もあると思いますが、笑いが伴うことでハードルが下がると思うし。これは性分で、コアなところに行くのは窮屈なんですよね。最近、フェスに出ると、いい意味で中庸なお客さんが多いんですよ。そんな人たちが疲れたときに、ケバブでも食いながら『マキタスポーツが変なことをやっているから観に行こう』ってノッてくれるというのが、僕のひとつの役目だと思います。そういうことを、なるべくマスのところでやってみたい」

 マキタスポーツにとってFLY OR DIEは、パロディーソングとは一線を画したものであり、ヴィジュアル系というコンセプトに則った、ポップミュージックに対する愛とリスペクトの発露の場なのかもしれない。

マキタスポーツ

「パロディーやモノマネは手品のタネ明かしみたいなもので、必然だと思って提示はしたんですが、僕自身、マジックを見たいのであってタネを知りたいわけじゃないんですよ。それを音楽でもう1回、ちゃんとやりたかった。脱方法論として音楽を作りたかったんです。もっと言えば、世の中の細分化が行き過ぎたので、みんなが楽しめるポップなものに取り組みたかった。僕は山梨の田舎で育ったんですけど、田舎って行けば行くほど選択の余地がなくて、ど真ん中のものしかないんですよね。サブカルチャーどころか、ど真ん中しか知らなかったし、やっぱりそういうのが好きなんでしょうね。美味しいとこ取りできるのがポップだと思うし、今はどうすれば口当たりがよく、耳触りがいい、人が楽しめる音楽ができるかに関心が強いんです」

 では逆に、マキタスポーツにとって、オリジナルとは?

「それって非常に怪しいもので、オリジナルと言い切れる人が、オリジナルなのかもしれない。有名な話で、矢沢永吉さんがバンドのギタリストに『素敵なコードを思いついちゃった』と言って、すでに存在している楽曲のコードをうっとり弾いたというのがありますが、だったらそれはもう“永ちゃんコード”でいいのではないかということなんです。いろんなものを感じてインプットしていくわけで、それをどう編纂して自分印にするかということだと思いますね。今や、見たことも聴いたこともないまったくのオリジナルなんて、ほとんどない時代ですから」

FLY OR DIE
『矛と盾』
発売中
通常版(CD) 3,240円
ダークネス・スペシャル・バージョン(LP) 4,860円

マキタスポーツの音楽のセンスと笑いのセンスの真骨頂とも言えるアルバム。ビジュアル系という形態をとりながらも、そのバラエティ豊かで、ジャンルに括ることのできない音楽はまさに「ポップ」という日本の音楽性を顕著に打ち出している。ファーストアルバムにして最高の作品だ。

マキタスポーツ まきたすぽーつ 1970年生まれ。山梨県出身。芸人、俳優、作家、さらにミュージシャンとしても活躍。多大な知識と、そのこだわり力が芸能界のみならず多方面に影響を及ぼしている。16年、FLY OR DIEのボーカルとして、アルバム『矛と盾』でデビュー。
http://makitasports.com/

撮影/Jan Buus 取材・文/鈴木宏和