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 「私にとって表現とは、メンバーと一緒にものを作りあげること。自分一人では思いも寄らなかったアイデアが出てきて、それを実現できるからグループ活動を続けている」
 2005年、アーティストの会田誠の周辺に集まっていた若者で結成された6人組のアーティスト集団「Chim↑Pom」。紅一点のエリイは近年、一人でメディアに登場することも多いが個人でアート活動するつもりはない。メンバー間で決まった役割分担はなく、各自でいくつもアイデアを考えてきて、時間をかけて話し合いながら、同時に複数のプロジェクトを進めているという。もっとも、他のメンバーからは、一番インスパイアされるのはエリイの存在や発想だという声も聞こえてくる。
 彼らの作品は身近な場所やストリートから生まれる。渋谷センター街でねずみを捕獲して、ピカチュウの剥製彫刻をつくった初期作の「スーパーラット」は、クラブ帰りにネズミ捕獲業者に「トラップをしても毒に対する耐性が増していく」という話を聞いたのがきっかけ。
彼らがねずみを捕獲しようと走り回る映像は、ネズミの生命力と人間が出し続けるゴミのイタチごっこを象徴するようでもある。
「糾弾や反発ではなく、社会現象をそのまま鏡のように映し出したり、呼応して形にしたりしているだけなんです。ものごとは一つの見方じゃなくて、今までの見え方や信じていたものが180度変わるような体験がアートの魅力の一つ。こういう見方もあるのか、こういうこともできるのかと違う方向に向けることができるんです」
 アトリエにこもらず、街に出て行くのは、見知らぬ人との出会いを大事にしているためだ。
「カンボジアでの地雷撤去を題材にした『アイムボカン』は、テレビで見た地雷撤去のおじさんを現地で探して、一緒に撤去しに行きました。当時、パリス・ヒルトンなどのセレブリティーによるチャリティ活動が盛んで、なかでもダイアナ妃による地雷撤去は究極だなと感じたんです」
 セレブの慈善活動は社会貢献のための使命なのか、自らのアイデンティティーをアピールするためなのか。カンボジアに滞在しながら、エリイ私物のブランドバッグなどを爆破して作品化し、オークションで売り上げて献金し、映像作品にした。
「バングラデシュやブラジルなど、展覧会などで様々な国に行きますが、どの国でも誰でも日々の幸せを求めているんだなと感じます。それに善悪にも色々あって、盗んだりする人だけが悪い場合だけじゃなく、貧富の差に原因がある。為政者など偉い人にだけに富や自由が許されている国とか、社会の仕組みに目を向けてほしいんですよね」
 表現する際に規制や固定概念があれば、それを体現して逆手にとるなどして見る側に様々な感情を喚起させる。
「いつもすでに作品はそこにあって、それを見つけに行く作業、そこにたどり着くまでにどういう道のりをたどるかを話し合っているように思います。視野を広くもって、よく考えます」
 エリイの結婚を祝うパレードの形をとった愛と平和のデモでは、警察署にデモ申請し、1か月通って実現した。警備隊に囲まれながら、西新宿のパブリックアート、「LOVE」の彫刻まで新宿の街を練り歩いた。篠山紀信やレスリー・キーらが撮影し展覧会を開催。写真集も出版した。
「昔は花嫁行列があったのに、今の東京ではなぜ一般人の結婚で路上を歩いてはいけないのか。皇族や芸能人などの儀式が公に晒されることがむしろフシギ。二人がただ一緒にいればいいのに、『結婚する』ことで社会に介入するんだなと思ったりもしました。お祝いのパレードなので、普段デモに参加したことのない人も多かったと思います」
 Chim↑Pomは今、自分たちで発案し、12組の作家が参加する「Don't Follow the wind」に出品中だ。東京電力福島第一原子力発電所付近の帰還困難区域で開催され、帰還困難区域の指定が解除されるまでは観に行くことができない展覧会。自由ではないから、自由を求めて表現するのだ。
「やり方は考えるけれど、表現したいと心の底から思うことがあったら、もう既にやってるものなんだと思いますね」

エリイ 横浜生まれ、東京在住。2005年に結成されたアーティスト集団「Chim↑Pom」メンバー。「Chim↑Pom」は、2015年1月「Prudential Eye Awards for Contemporary Asian Art」で大賞受賞。特典として今夏、サーチギャラリーで個展を開催。今秋、ワタリウム美術館で「Don't Follow the wind」のサテライト展も開催。
http://chimpom.jp/

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