早川監督を中心とした、和やかでありながら、プロフェッショナルな映画づくりの現場は、刺激的でもあった。
「現場では監督の指示に全力で応えようと、常に意識を向けていました。監督からは“とにかく感情を抑えてください”と言われたんですけど、私はあまり抑えるお芝居をしたことがなくて、どちらかというと、これまでは感情を露わにする役が多かったんですね。そういった意味では難しかったですし、撮影中は最終的にどんな仕上がりになるかもあまり想像できなくて。でも、試写を観たときに、登場人物の気持ちがすべてつながっているのを感じて、やはり早川監督の演出が的確だったんだなと改めて感じました」
主人公の沖田フキを演じた鈴木唯との母娘のシーンは、特に印象深いという。
「唯ちゃんの演技が素晴らしくて、現場でも圧倒されっぱなしでした。大好きなシーンもたくさんあります。ただ、自由なフキに対して、詩子はいつも不機嫌で、それは年齢的なものもあるでしょうし、すべてがうまく行っていない時期だということもあると思うんです。他の人に救いを求めたり、根っこに戸惑いがあったりと、そういう詩子の細かな感情が観ている方に伝わるといいですし、映画は80年代が舞台ですけど、結局人間って変わらないんですよね。葛藤するし、不安になるし、優しくもできる。どの時代でも同じなんだなと感じてもらえるとうれしいです」