こだわる喜び。
石田ひかり
 喜怒哀楽だけには分けられない、多彩な感情がスクリーンに映し出される。6月20日公開の早川千絵監督による映画『ルノワール』は、80年代の日本を舞台に、11歳の少女と大人たちの関わりを描くひと夏の物語だ。少女の母親・沖田詩子を演じた石田ひかりは、本作へ出演することになった経緯を熱く語る。
「私は早川監督の前作の『PLAN 75』を初日の初回で観て、とても衝撃を受けた一人なので、まさか自分がこんなに早く監督とご一緒できるとは、夢にも思っていませんでした。2年くらい前に出演のお話をいただいて、マネージャーから“実は早川組なんだけど”と聞いた段階で“絶対にやります!”と即答しました(笑)。最初に、監督からプロットと、人がプールに浮かんでいるようなイメージ写真をいただいたんですね。やはり『PLAN 75』の印象が強かったので、まったく違う作品を撮ろうとしているんだと、そこでも衝撃を受けて。でも絶対に何かが起こるんだろうと、ワクワクしました。台本もいただいてすぐにカフェに立ち寄って、夢中で一気に読みました。そこから猛スピードでことが進み、今に至るという感覚です。本当にここまであっという間でした」
 撮影は、主に岐阜市内で行われたという。
「一つのことに集中できる環境を作るのはなかなか難しいんですけど、東京を離れたことによって、この映画の撮影にじっくりと向き合えたのはとても幸せでした。家のことも一切忘れることができましたし(笑)。映画づくりは時間がかかりますし、実現しないことも多いので、お話をいただいてからも、頭のどこかで“本当にできるのかな”と考えながらクランクインまで過ごしていたんです。具体的に撮影のスケジュールが決まってからは本当に楽しみでしたし、始まってもいないのに撮影が終わってほしくないと思ったのは初めての経験でした。クランクインしてからも、一日一日が終わってほしくない、終わってしまうのがもったいないと思っていて。ずっとこのメンバーで撮影していたいと思わせてくれた、夢のような現場でした」
 早川監督を中心とした、和やかでありながら、プロフェッショナルな映画づくりの現場は、刺激的でもあった。
「現場では監督の指示に全力で応えようと、常に意識を向けていました。監督からは“とにかく感情を抑えてください”と言われたんですけど、私はあまり抑えるお芝居をしたことがなくて、どちらかというと、これまでは感情を露わにする役が多かったんですね。そういった意味では難しかったですし、撮影中は最終的にどんな仕上がりになるかもあまり想像できなくて。でも、試写を観たときに、登場人物の気持ちがすべてつながっているのを感じて、やはり早川監督の演出が的確だったんだなと改めて感じました」
 主人公の沖田フキを演じた鈴木唯との母娘のシーンは、特に印象深いという。
「唯ちゃんの演技が素晴らしくて、現場でも圧倒されっぱなしでした。大好きなシーンもたくさんあります。ただ、自由なフキに対して、詩子はいつも不機嫌で、それは年齢的なものもあるでしょうし、すべてがうまく行っていない時期だということもあると思うんです。他の人に救いを求めたり、根っこに戸惑いがあったりと、そういう詩子の細かな感情が観ている方に伝わるといいですし、映画は80年代が舞台ですけど、結局人間って変わらないんですよね。葛藤するし、不安になるし、優しくもできる。どの時代でも同じなんだなと感じてもらえるとうれしいです」
 キャリアを重ね、来年でデビュー40周年を迎えるが、仕事以外で今こだわっていることを聞いてみた。
「これまでずっと慌ただしく生きてきたんですね。特に結婚して、子どもが生まれてからは、子育てと並行して仕事もしていましたし、怒涛の日々でした。でも、娘たちが成人して、手が離れて、ようやく家のことに手がつけられる時間が持てるようになったんです。最近はインテリアのことを考えているのがすごく楽しくて、家に合う照明をいろいろと探しているところです。もちろん、今は今で出演中のドラマのことなど、考えなければならないことはあるんですけど、空いている時間に自分の好きなことについて、考える余裕ができたという感じです。インテリアはいつまでに用意しなければいけないというものではないので、じっくりとこだわっていきたいですね」
映画『ルノワール』2025年6月20日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
1980年代の夏。豊かな感受性を持つ11歳の沖田フキ(鈴木唯)は、自由気ままな夏休みを過ごしていた。ときどき垣間見る不完全な大人たちの世界は、複雑な事情が絡み合い、なんだか刺激的。だが、仕事に追われる多忙な母親の詩子(石田ひかり)と闘病中の父親の圭司(リリー・フランキー)の間には大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らいでいく。監督・脚本:早川千絵。
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配給:ハピネットファントム・スタジオ
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石田ひかり いしだひかり 女優。1972年生まれ、東京都出身。1986年にデビューして以来、大林宣彦監督の映画『ふたり』や連続テレビ小説『ひらり』など、さまざまな映画やドラマに出演。現在はドラマ『続・続・最後から二番目の恋』と『ミッドナイト屋台~ラ・ボンノォ~』に出演中。公開待機作に6月13日公開の『リライト』と、6月20日公開の『ルノワール』などがある。
撮影/藤原江理奈
ヘアメイク/山谷友里恵 スタイリング/安野ともこ
衣装協力/ブラウス¥39,600、ワンピース¥69,300、パンツ¥39,600(以上すべてsuzuki takayuki/問い合わせ:03-6419-7680)、リング¥58,300、ピアス¥85,800(以上すべてCASUCA/問い合わせ:03-6452-3196) 撮影協力(デスク)/AWABEES