空気を、楽しむ。
哀川 翔
 俳優であり、芸能界きっての趣味人でもある。釣りにモータースポーツにカブトムシの飼育まで、数々の趣味を全力で楽しむ姿がフォーカスされることも多い。
「どの趣味もそれぞれ楽しさがあるんだけど、年を追うごとに、だんだんと自分自身がどこまで挑戦できるのかという方向にシフトしていっているよね。例えば、昨年はチームの総監督としてアジアクロスカントリーラリー2024にも参戦したけど、もう目もついていかないし、レスポンスも遅れてしまう。だから俺の中では勝ち負けや順位はそこまで考えていなくて、自分はどこまで攻められるんだろう、どこまで行けるんだろうって、それを確かめるためのラリーでもあったわけ。その中で完走できて、結果がついてきたのはうれしいけどね」
 生涯にわたって楽しめるのは、どんな趣味なのだろうか。
「ゴルフなんかは年齢と共にスコアも落ちてくるから、なかなか気持ちが向かわなくなってくるでしょ。自分の全盛期のパフォーマンスを知っているから、そこに到達できないことにもどかしさを感じることもある。ただ、釣りに関してはそういうことがない。釣りはパフォーマンスの勝負じゃなくて、気持ちの勝負だから(笑)」
 釣りは生涯をかけて夢中になれる趣味の一つだという。
「思いが強ければ大物が釣れる。たまたまだって言う人もいるけど、俺はそうじゃないと思う。もちろんある程度の体力は必要だし、気持ちだけで釣れるものじゃないけど、気持ちがないと釣れないのも本当だから。それに、意識を研ぎ澄ませていると、なんとなく“次に来るぞ”ってわかるんだよね。それが釣りの醍醐味だと思うし、あの感覚を味わっちゃうとやっぱりやめられない。死ぬまで釣り続けると思うよ」
 大切なのは、どんなことでも楽しむスタンスだ。
「すべてのことは、どう自分が楽しむかだと思うんだよ。人の心の動きって、絶対に周りに伝わるから。自分が楽しめば周囲を巻き込んで盛り上がることができるし、逆に気持ちが沈んだままだと他の人も沈んじゃうからね。また釣りの例えで申し訳ないんだけど、一緒に釣りに行った仲間が釣れて、自分はボウズなんて場面もよくあるでしょ。そこで相手をやっかむんじゃなくて、“やったじゃんか! よし、俺も絶対に大物を釣ってやるぞ!”って気持ちに転換できるかどうかなんだよね。そうすると大物が釣れたりする(笑)」
 あくまで、楽しむことが第一だ。
「でも釣れなくてもいいの。楽しめればいい。俺が一番うれしかったのは、八丈島に泊まりで釣りに行ったときに、その日は全然釣れなかったんだけど、次の日にまた釣りに行けるとわかった瞬間だから。“またチャレンジできる!”って、めちゃくちゃ喜んだよ(笑)」
 仕事に対する姿勢も変わらない。
「楽しむという意味では、趣味も仕事も同じなんだよね。車の両輪みたいなもので、たぶん趣味を全力で楽しめなくなったら、仕事に対する思いも薄れていくんじゃないかな。趣味も仕事も、気持ちの持って行き方って同じなんだよね」
 昨年は出演作の映画『一月の声に歓びを刻め』や『オールドカー~てんとう虫のプロポーズ~』などが公開。出演したドラマも話題となり、仕事の面でも充実した年となった。
「芝居に関して、今は“いかに力を抜くか”が自分のテーマになっている。手を抜くということじゃなくてね。これまでは割とアウトローな役が多くて、力の入った芝居をしていたんだけど、最近は一般人の役も増えてきたから、力を抜くことが重要になってきた。実は特殊な役のほうがやりやすくて、普通の人って演じるのが本当に難しいんだよ」
 現場で意識しているのは、滞りなく撮影を終えること。
「スムーズに最後まで撮影することを目指しているから、変な空気にならないように多少は意識しているけど、でも嫌な雰囲気になる現場なんてそんなにないよ。『一月の声に~』は八丈島で、『オールドカー』は鹿児島で撮ったんだけど、その土地が自然と現場の空気を作ってくれるから、どちらも良い雰囲気の中で撮影できたと思うよ。それに、俺があえて空気を読む必要もないと思うんだ。いかに自分が楽しむか、ということだけを考えて模索していれば、結果として良い現場になっていく。それはどんな仕事でも同じ。逆に空気を読み出しちゃったら、自分が楽しめないから。人の目を気にしすぎて、仕事も趣味も楽しめていないような人には“空気なんか読むな!”と言いたいね」
哀川 翔 あいかわしょう 1961年生まれ、鹿児島県出身。一世風靡セピアのメンバーとしてデビュー後、ドラマ『とんぼ』や映画『オルゴール』に出演し、その演技力を認められ、Vシネマデビュー。数多の出演作と、その存在感から「Vシネの帝王」と呼ばれる。近年の出演作に映画『一月の声に歓びを刻め』『オールドカー~てんとう虫のプロポーズ~』、ドラマ「Qrosの女 スクープという名の狂気」などがある。スポーツライブ+にて「哀川翔のオトナ倶楽部」が不定期放送中。