FILT

小宮山雄飛

小宮山雄飛の〈音楽〉

ホフディランのボーカルにして渋谷区観光大使兼クリエイティブアンバサダー。「TORANOMON LOUNGE」のプロデュース、食関連の番組レギュラーや雑誌連載も担当するなど幅広く活躍。
詳しくは「hoff.jp」へ!

音楽その10

2015.11.20

Apple Musicスタートによって今後音楽がどうなっていくだろう?というのは、以前にこのコラムでも書きましたが、あれ以来、さまざまなところで同じような内容でミュージシャンや音楽評論家が「今後の音楽について」語っている文章を目にします。
さらには出版業界の人たちが、出版の世界でも雑誌などが定額制で読み放題になっていっている状況を鑑みて、今後の音楽業界の向かう方向が、自分たちの問題でもあるという視点で語っているのもよく見ます。
ということで、良くも悪くも注目されている”定額配信システム”なのですが、今回はまたすごーくピュアな視点からこのシステムについて考えてみたいと思います。

ピュアな視点とはなにか?

それは純粋に一(いち)音楽ファンとして、また一(いち)ミュージシャンとしてです。

予想通りApple Music以降、僕は昔好きだった音楽ばかり毎日聴くようになりました。
単に昔聴いていた音楽だけじゃなく、昔買ったけどなくなっちゃったCD、名前は知っていたけど買ってまでは聴いたことなかったアーティストなど、細かく言えば色々なタイプがあるわけですが、要は全て「昔のもの」なんです。

この状況は僕らのように音楽を仕事にしている人間にとっては一大事です。
昔の音楽だけで人々の<音楽ライフ>が 成立してしまったら、僕らは今後新譜を出すことがどんどん難しくなっていきます。

それはもう死活問題です!

しかし、よくよく考えてみれば、毎年新たに出される新譜と、過去50年以上に渡ってリリースされた音楽が同じ「聴き放題」の中に入っているわけですから、当然割合として「昔のもの」を聴くことになるのは普通のことです。
ホフディランにしたって、新譜といえるのは1枚だけで、それ以外のアルバム・シングルは「昔のもの」なわけですから、昔の音楽が聴かれるというのは、ごくごく当たり前とも言えるのです。

そんなことを考えていた時に、ふと「ピュアな視点」から思い出したことがあります。

それは、デビュー前にミュージシャンを目指していた頃、XTCやWEEZER、BLURなんかの大好きな音楽を聴きながら、本当に好きなメロディの曲に出会った時にいつも
「こんなメロディを書けたら、死んでもいい」
と思っていたことです。

それはつまり、大げさに言うなら
「曲が永遠に残ってくれれば、僕という個体が無くなっても、音楽として生き続けられる」
という思いがあったのです。

そのことをふと思い出したら
「あ!!」
って思ったのです。

Apple Musicで昔の曲聴いてるのって、そういう状況じゃん!と。

その年の流行やらランキングとか関係なく、良い曲が何十年も聴かれ続ける状況。

今の僕からしたら、新譜が聴かれ辛くなるというのは決して良い状況ではありません。
でも昔の僕からしたら、書いた曲が何十年後でも普通に聴いてもらえる状況って、まさに求めていた状況なのです。

もともとポピュラーミュージックがアナログのレコードやカセットで出されていた時代って、流行はもちろんのこと、アナログによる現実的な音の劣化や、それらを売る販売店の売り場面積の問題など、さまざまな事情で、音楽は常に新しいものと入れ替わっていっていたのですね。
本当にエバーグリーンで歌い継がれる曲以外は、ある程度時代とともに過ぎ去っていく運命だったのです。

それが今のシステムによって、曲が「永遠の命」を手に入れたのです。

なんかふとそんなことを思った時に、Apple Musicの見方(聞き方?)が、僕の中でまた変わったのです。

まだまだ結論が出るような問題ではありませんが、本当に僕らと音楽の関わり方が根底から変わっていく真っ只中にいるんだなと思います。

backnumber

CONTENTS