FILT

風間太樹×朝井リョウ

風間太樹×朝井リョウ

撮影/Jan Buus
取材・文/中村千晶

 映画『チア男子!!』は主要キャストをはじめ、原作者の朝井リョウさんも風間太樹監督も20代。“若き才能の結晶”である点も魅力だ。

朝井 原作を書いたのは21歳のとき。これまでも何度か映画化のお話をいただいたのですが、チアリーディングの演技にはケガのリスクもあり、実現しなかった。今回はまず風間監督から手紙をいただきました。
風間 はい、暑苦しいやつを書かせていただきました(笑)。
朝井 脚本の修正に入る前に、二人だけで食事をしながらお話をさせていただいたんです。それがよかったですよね。
風間 はい、映画の方針を決める上でも、すごく重要でした。
朝井 完成した映画を拝見したときは、気を抜くと、「監督は大変だったろうな……」と、撮る際の苦労ばかりに意識が飛んでしまいました。
風間 朝井さん、メールでもずっと気づかってくださって。

風間太樹×朝井リョウ

朝井 年上のスタッフに囲まれ、ちゃんと監督は自分のやりたいこと、個性を発揮できただろうか? とか。兄貴気取りだったらすみません。
風間 ありがとうございます。そう感じていました。僕はチアリーディングの魅力を描くのと同時に、7人が抱える問題や葛藤を、映画で大切に描きたいと思ったんです。朝井さんも同じように考えてくださっていたので「大丈夫だ!」と。
朝井 そこを共有できたことは大きかったですね。
風間 あとハルがやりたいことを自ら選び取っていくことを物語の芯にしたかった。その姿に自分を重ねてもいました。初の商業映画監督作で僕自身も色々な言葉を受けてブレてしまう局面もあったんです。だからこそ「自分が正しいと思ったことを信じ続ける強さ」をハルに重ねて描きたかった。朝井さんにはその追い風をいただけたと感じています。
朝井 私は文章と映像の長所は違うと思っているので、映像化による原作の改変は気にしません。それよりも、「あの文章をこういう映像に変換したんだ!」みたいな“人の知恵”を沢山見せつけてほしいんです。そもそも私の小説はモノローグが多いので、映像に変換する作業は大変だと思います。そこをどう撮られるのか、いつも興味があります。
風間 僕は朝井さんの小説をずっと読んできたので、モノローグのスタイルに魅力を感じていました。撮影部として映画に関わっていたこともあって、チアリーディングの撮り方も、モノローグの繊細な部分も自分なりの切り取り方をイメージできた。だからこそパフォーマンスを通し、人物の想いが表れていくような構造を作ろうと考えたんです。ラストに向けて、7人それぞれの葛藤を散りばめ、集約できたらいいなと。
朝井 文章で表現したものを肉体に語らせる大変さを感じました。

風間太樹×朝井リョウ

朝井 私は本当に小説を書くことに慣れないんです。世の中に存在する「感情」や「現象」に対して「言葉」のほうが圧倒的に少ないと常々思っているので、小説を書き終えても「いまは、この言葉しかないから無理やり当てはめたけど、本当はこの言葉じゃない!」と思ってしまう。その繰り返しです。私はたぶん、すごく長い一冊をずっと書き続けているのだと思います。本当は慣れたいです。
風間 僕も映画を作ることには慣れないし、常に新鮮ですね。僕は人間関係でも「慣れる」のが怖いんです。近付いた分だけの距離を振り返って、引き返すこともあります。相手を知る過程が好きなのかな。
朝井 へえ~。じゃあ突然、スマホの電話帳を全部消したり?
風間 いや、それはさすがにしないですけど(笑)。でも朝井さんとはもっとお話したい! ぜひまた食事、ご一緒させてください!
朝井 こちらこそ、お願いします!

『チア男子!!』
2019年5月10日(金)全国公開
朝井リョウの原作小説を横浜流星と中尾暢樹のW主演で、風間太樹監督が映画化。怪我をきっかけに柔道から距離を置いていたハル(横浜)に、幼馴染のカズ(中尾)は「一緒に新しいことを始める」と宣言。それは、前代未聞の“男子チアリーディング部”の創設だった。
(配給:バンダイナムコアーツ/ポニーキャニオン)
letsgobreakers7.com
(C)朝井リョウ/集英社・LET’S GO BREAKERS PROJECT

朝井リョウ あさいりょう 小説家。1989年生まれ、岐阜県出身。2009年に『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年に『何者』で直木賞受賞。2014年に『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞受賞。実在の男子チアリーディングチームをモデルにした2010年の小説『チア男子!!』が風間太樹監督の手によって映画化。

風間太樹 かざまひろき 映画監督。1991年生まれ、山形県出身。映画『恋は雨上がりのように』や『帝一の國』のスピンオフドラマ版の監督を担当。2017年の「東映 presents HKT48×48人の映画監督たち」に参加し、短編映画『屋上のおばけ』を発表。長編初監督作品となる横浜流星と中尾暢樹のW主演映画『チア男子!!』が公開中。

撮影/Jan Buus 取材・文/中村千晶