撮影/Jan Buus
取材・文/宮崎新之
撮影/Jan Buus
取材・文/宮崎新之
世界各国で暗躍する犯罪集団やスラムなどの貧困問題につぶさに切り込んでいくジャーナリスト・丸山ゴンザレス。危険地帯などものともしない体当たりの取材スタイルがテレビ番組でも紹介されている。
「もともと考古学者を目指していて、あれこれあって挫折しちゃって。ジャーナリストになったのも結果であって、なろうと思っていたわけじゃない。危険地帯とかに踏み込む最初のきっかけって、本当に小っちゃなことなんです。海外の日本人宿とかでちょっと自慢したいとか、居酒屋トークのノリでひとネタあればとか、そういうときのためのネタ探し。もっと面白いものを、もう1歩、もう半歩……とやっていくうちにこうなりました(笑)。20代とかの若い頃は、まわりに俺みたいな奴らはいっぱいいたんですよ。でも気づいたら、みんな居なくなってた。落ち付いちゃって、もうスラムとか行かなくなっちゃってるんですよね(笑)」
危険な現場取材の機会は数知れず。だが本人は涼しい顔でこう語る。
「あんまり危険だと思ってないんですよ。定義はいろいろありますけど、スラムは都市部における貧困層の人口過密地帯で、家族とかのコミュニティをグチャッと寄せ集めたものなんです。で、不法占拠だと望ましい(笑)。結局、ただの生活の場なんで、そこに入っていくこと自体はなにも怖くないし、なにか危険なことに巻き込まれたら運が悪い。それだけのことなんです。まぁ、たまに起きますけどね、危険なこと(笑)」
生活の場は怖くない。それは現場に足を運び続けたからこその境地だ。
「とはいえ、昔は怖かった。数を重ねて、そういう結論に辿り着いたんです。知らないから怖いだけ。もちろん、夜中に出歩いたり、ヤク中がたむろしているとこに行ったりはNG。まぁ、東京でやってもダメなことはダメです」
著作では、犯罪や貧困などの大きなテーマを扱っていながら、食事などの人の営みがまざまざと綴られている。海外の人々は異国人に易々と語ってくれるものだろうか。
「人と会うときの最低限の礼儀はまず気にしますね。たとえスラムのどんな汚い家で、言葉の通じない相手であっても、靴のまま入っていいわけじゃない。もちろん、いざ話を聞くとなっても取材相手には敬意を払いますね。あとは外国人が言ったら面白いだろうな、と思うような言葉は覚えていきます。東京でも外国人が『アイシテマース』なんて言ってたら、面白いじゃないですか(笑)。それと同じこと。取材では、緊張と緩和を繰り返します。突っ込んだ質問の後には、たばこをあげたり。貧困層の人にとってはたばこも高価なんで、喜んでもらえるんですよ。相手集団のキーマンにたばこを勧めて、一緒に吸いながら関係ない雑談なんかすると、こっちのキャラクターも理解してくれて、距離が近づく。そんなことの繰り返しです」
入念に準備しても、不測の事態は起こる。
「考古学の研究者を志していたので考え方のベースはそこなんですね。考古学の発掘作業なんかでは、『ここに遺構があるのでは』と思っていても、出てこなければ別の場所を掘らないといけない。イレギュラーなことを無視していては学問はなりたちませんから。仮説はどんどん変わる。大体のことは想定外のところに進んでいくもの。道は1本道じゃないんです。今でも覚えているのが右と左の分かれ道でどっちに行こうか迷ったことがあって。あの時、逆に行っていたら、本に書いた話は無かったんだろうな、と」
今、かつては考えていなかった場所も取材するように。
「もう一方の道もいつか回収しよう。そう思っています。初めての旅はアジアでした。それ以来、20代はアジア・アフリカ専門でした。でも最近は米国や欧州にも行くようになっています。あの当時に選ばなかった“あさって”の方を、今、僕は取材しているんです」
丸山ゴンザレス まるやまごんざれす ジャーナリスト、書籍編集者、國學院大学学術資料センター共同研究員。体当たりルポと地道な調査を信条とし、『クレイジージャーニー』(TBS系)に出演。近著に『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』(講談社)、『旅の賢人たちがつくったタイ旅行最強ナビ』(辰巳出版)など。
撮影/Jan Buus 取材・文/宮崎新之