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山崎 貴

山崎 貴

撮影/Jan Buus
取材・文/宮崎新之

山崎 貴

山崎 貴

 昭和の情景をダイナミックに描いた『ALWAYS三丁目の夕日』のヒットで知られる山崎 貴監督。12月9日公開の『DESTINY 鎌倉ものがたり』も西岸良平氏のコミックが原作となる。

「『鎌倉ものがたり』は、以前『ALWAYS~』をやらせていただいた時に、西岸先生の代表作の一つとして読ませていただいていて。その頃から、映画化の話はあったんです。ただ、『鎌倉ものがたり』は一つ一つの話が『三丁目の夕日』よりも独立していて、2時間の映画にするのはなかなか難しかった。ずっと、つかず離れずの案件として置いてあったんですが、そろそろ本格的に、となったときに、原作を再び読んでみたんです。そしたら、死者と生きている人の距離感がすごく独特で、それが鎌倉という街だから許されているような感覚があって、そういうところを映像にできたら面白いんじゃないかと思いました」

山崎 貴

 映画で描かれているのは、死者と魔物と人の入り混じる独特の世界観。そこには原作者の意向に加え、山崎監督自身の考えも反映されている。

「西岸先生には、魔物や死者が人の世界で仲良く暮らしているという部分だけは大事にしてほしいと言われました。そこは作品の根幹なので、かなり気を付けましたね。あとは、実はこの企画を立ち上げている頃に近しい友人を立て続けに亡くして、死というものについて考える機会が多かったんです。ただ、僕は、それをネガティブに捉えず、もっと“死んだら死んだで不思議な世界がある”って考えられないかと思ったんです。死んだら魂はもっと自分の思い描いた、理想の世界に行けるんじゃないかと。そして、そういう死の取り扱い方って、この作品の中なら許されるんじゃないかという想いもありました。実際、鎌倉って歴史もあるし、夜になるとなんとなく妖気が濃くなるような…気がしません?」

 スクリーンに映し出される街は、どこか懐かしく穏やかな風景。鎌倉を描くにあたり「現実よりも少し理想的な場所にした」と語る。

「鎌倉にまだ行ったことない人が思い描いている鎌倉をちゃんと映画にしたくて。その感覚は『ALWAYS~』の時にもありましたね。これが意外と大変で(笑)。道路を封鎖してクラシックカーを10台くらい並べたり、大仏を合成させてもらえるよう根回ししていただいたり。でも、それによって『鎌倉ってこんな感じだよね』って、腑に落ちてもらえれば。後半に黄泉の国が出てくるんですが、こちらもちょっと不思議な昭和の温泉街のような感じ。僕の中の“あの世”って、魂が戻って少し休むリゾート地みたいなイメージなんです。死を怖がりすぎると、本当に怖い場所に行ってしまう気がするし、亡くなった友人たちにもそういう穏やかなところに行っていてほしい。そして、そういうところでまた会いたいから」

山崎 貴

 本作では、『ALWAYS~』でも描かれた“理想の昭和”が見られる。

「思い出の中の昭和って、理想的に塗り替えられていますよね。昭和にも今と変わらず良い所も悪い所もあった。でも、魂の故郷として、そういう思い出を持っているのは悪いことじゃないし、そこから学べることもあると思う。『ALWAYS~』は、まさに理想の昭和を映像化したものなんです。昭和のあのバイタリティって、この先がずっと良くなるっていう希望の上にあって、色々と知りすぎて未来は灰色だと思っているような今の子たちにはもう持てないものなのかもしれません。だから昭和の、あのひたすらに未来を信じられる感じは、学んでもいいんじゃないかな。未来なんて、何があるかわかんないんだから」

 理想的な昭和の美しい部分を、未来の糧にしてもいい。過去から学ぶとは、そういうことなのかも知れない。

『DESTINY 鎌倉ものがたり』
12月9日(土)より全国東宝系にて公開
西岸良平の原作を堺雅人と高畑充希の主演で映画化。鎌倉に暮らすミステリー作家・一色正和(堺雅人)のもとに嫁いだ年若い妻・亜紀子(高畑充希)は、人と人ならざるものたちが仲良く暮らすその街での生活に驚くばかり。しかし、ある日、亜紀子が不慮の事故で亡くなってしまい、正和は亜紀子の命を取り戻すため、一人黄泉の国へ向かう。
(配給:東宝)
http://kamakura-movie.jp/
(C) 2017「DESTINY 鎌倉ものがたり」製作委員会

山崎 貴 やまざきたかし 映画監督。1964年生まれ。長野県出身。2000年に『ジュブナイル』で監督デビュー。代表作に『ALWAYS 三丁目の夕日』、『永遠の0』、『寄生獣』、『海賊とよばれた男』など。最新監督作『DESTINY 鎌倉ものがたり』は2017年12月9日(土)より全国東宝系にて公開。

撮影/Jan Buus 取材・文/宮崎新之