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大谷ノブ彦

大谷ノブ彦

撮影/Jan Buus
取材・文/小池貴之

大谷ノブ彦

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 お笑いコンビ・ダイノジの大谷ノブ彦が嫉妬した相手は、相方の大地洋輔だった。2006年、大地がエアギターの大会で世界一に輝く。

「お笑いの世界に入ってくる人間は、みんな自分が世界で一番面白いと思っている。だから誰にも負けたくないし、競争がめちゃくちゃ多い。そういう意味では、多かれ少なかれ妬みや嫉みはあったのかもしれません。でも、はっきりと自覚したのは大地のエアギター世界一でしたね。大地の取材に一応同席させられるけど、僕のほうには一切質問がない。取材をする側としては当たり前の話なんです。ただ、僕は比べられているという恥辱に耐えられなくて。それまでは、自分がコンビのイニシアチブを取っているつもりだったから尚更です。結果的にお互いがプラスにならないようなこと、相手をくさすことばかりやってしまった。相方が“世界一”になったのに売れなかったのは僕のせいです」

大谷ノブ彦

「若い頃は嫉妬がエネルギーになる」と語る大谷。その一方で、年齢を重ねていくうちに、少しずつ考え方を変えることが大事だともいう。その理由をサウナに例えて説明した。

「若い頃の嫉妬は原動力になるけど、それが自意識に変わっちゃった瞬間に邪魔な存在になってしまう。エネルギーの使い方を間違えると、他者も自分も傷つけてしまうかもしれない。だから、弱さを認めるというか、嫉妬している自分をさらけだしてしまった方が楽になれるんです。サウナの本質って、水風呂らしいんですよ。汗を出し切った後、水風呂に入る。あれって、一回死んでいるんです。昨日までの自分を一回殺している感じ(笑)。でも、それが大事。人に笑われ、イジられることで自意識から抜け出す。嫉妬している自分を受け入れてプライドを脱ぐ瞬間が必要。まさに、サウナ後の水風呂で生まれ変わる感覚ですよね」

 また、奥さんとの関係を語る中、こんなエピソードも飛び出した。

「カミさんは、もともと僕のファン。僕は自分のことを好きだって言ってくれる女性が好みだったから最高の相手。だって、ファンだと100点から入ってくるでしょ。結婚当初は僕を神のように崇めてくれた。それが今ではお風呂も最後だし、そのまま掃除もしたりして。神から落ちるのが早かった(笑)。出会った頃はしおらしかったけど、今じゃ腹を突き出してイビキかいて寝ている。でも、これは俺が作ったんだよなって思ったら感慨深い。向こうも同じことを考えているんでしょうね。幸せの基準は人それぞれ。この間、家族でご飯を食べに行ったら、隣の家族が僕らよりもいい肉の食べ放題を選んでたんです。うちはこれで幸せと思って食べていたけど……。ちょっと悔しかったから帰宅後に“幸せとは”って家族会議をしました。何でしょう、この小ささ(笑)」

大谷ノブ彦

 最後に、春から新生活を送る若者へ、嫉妬ノススメを説いてくれた。

「若い人は、これからたくさん失敗するし、ネガティブな感情や嫉妬も生まれると思う。自分でも認めたくない自分に遭遇する場面もあるだろうけど、それを抱えれば抱えるほど、後でハッピーが倍返しでやってくる。そういう発想を持って生きたほうがいいんじゃないかな。学生時代に、矢沢永吉さんの『成り上がり』を読んだんですけど“何も上手くいかなくても将来自伝を書いた時にそれが効くんだよな”って。失敗があるから成功した時にみんながすごいと言ってくれる。あのひと言は自分の中で大きかった。不幸はただの不幸じゃなく、いつかきっと笑い話になる。そう思えたら強い。だから、むしろ今は若い人たちに嫉妬しますよ。上手くいってなくてもいいじゃない。考え方を変えたら何でもできるということなんだから。恐れずにドーンと行ってほしいですね」

大谷ノブ彦 おおたにのぶひこ 1972年生まれ、大分県出身。1994年に中学校時代の同級生だった大地洋輔とお笑いコンビ・ダイノジを結成。タレント活動のほか、音楽やラジオDJや本の執筆など、幅広く活躍。「DJダイノジ深夜の回転体」(ニッポン放送)や「大谷ノブ彦のキスで殺してくれないか」(CBCラジオ)などにレギュラー出演中。

撮影/Jan Buus 取材・文/小池貴之

ヘアメイク/新妻咲樹(ハッピーバブス80.) スタイリング/亜喜子(STARs80)