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木村文乃

木村文乃

撮影/Jan Buus
取材・文/石原たきび

木村文乃

木村文乃

「私、すごく生きにくい人間なんですよ」
そう言って、木村文乃は笑う。
「昔から、人の気持ちが手に取るようにわかって、そういうものが自分の心の中にダイレクトに入り込んでくる。ちょっとしたことでも感情を大きく揺さ振られるし、自分の言動が誰かを傷つけたかもしれないと考えて勝手にへこんでみたり…」
 人の気持ちの揺れが心に響きすぎる、こうした状態がしんどくなり、一時期、自分の感情を世間と切り離して完全にオフにしようと試みた。
「映画を見て泣いている人がいても『なんで泣けるんだろう。所詮物語なんだし』と、冷めた感想しか浮かばなくて。そうやって自分を守っていたんです」

木村文乃

 引退を考えたのも、ちょうどその頃だ。実際に木村は女優業からいったん離れ、病院の受付やウェディングなどのアルバイトをした。
「2006年に『風のダドゥ』という映画をやらせてもらったんですが、2012年にこの作品の助監督さんと再び映画で再会したんです。その時、『正直、もっと変わってるかと思った。あまり成長してないね』と言われて。私には、その言葉がすごく重かった」
 事務所を移り本気で取り組む決意をしたところだった。数ヶ月先までスケジュールが埋まっている多忙な状態。気持ちも前向きだった。そこで言われたのが先のセリフだ。
「一生懸命やっているつもりでしたが、自分を守っていたのかな。自分でもどこかで『これじゃダメだ。まだ足りない』とはわかっていたんです」
 悩んだ末に「やっぱり、揺さ振られなきゃダメだ」と思い至る。リハビリのように感情をオンにする練習を繰り返し、本来の自分ともいえる“生きにくい”生活に戻した。

木村文乃

 結果的に、芝居に対する向き合い方も大きく変化する。昨年は蜷川幸雄の『わたしを離さないで』という作品で初の舞台を体験。それまでは、言葉を覚えてフラットに臨むスタイルだったが、この作品では演技指導がほとんどなかったため、自発的に考えて与えられた役を演じ切った。
「ふだんは演技についても人からいろいろアドバイスをいただいて、悩んじゃって浮かび上がってこれなくなっちゃうタイプなんです。でも、この舞台では何も言われなかった。不安でしたが、それが自分で表現について考えるきっかけになった。結果的によかったんだと思います」
 5月公開の最新映画『イニシエーション・ラブ』では、洗練された東京の女・美弥子を演じている。シーンによっては、自分で「こうしよう」と考えながら役に徹し、充実した撮影になったという。
「2015年、最も注目される女優」との呼び声も高い木村だが、多忙な毎日の息抜きは料理だ。
「料理は昔から好き。全部独学ですがほぼ毎日作りますね」
 木村はフォロワーが約13万人いるインスタグラムに、そうした料理の写真や季節の花々などをアップしている。
「見た人がホッとできるような、そんな写真を載せるようにしています。日によって光の入り方も違うんです。私が写真を撮った時に感じた『あたたかさ』が伝わればいいな、と。それにしても13万人の人が私が毎日何を食べたか知ってるって、よく考えたらすごいですよね(笑)」
 今は早寝早起き。リズムを作り、健康的な生活を心がけているという。とはいえ、撮影が朝から晩までが続くと、そのリズムが崩れ、「病んでいく(笑)」そうだが、今の彼女はそんなことも簡単に乗り越える術を知っているように見える。食はその人の暮らしぶり映し出す。そんなプライベートな写真をインスタグラムで見せてくれる彼女は、確かに正直で生きにくい人なのかもしれない。でも取材が終わると「今日のご飯何にしようかなあ」と楽しそうにつぶやく彼女には、感情の揺れさえも糧にする女優としての覚悟が見えたように思う。

木村文乃 きむらふみの 1987年生まれ。東京都出身。映画「アダン」でデビュー後、数々のテレビドラマやCMに出演。4月からTBS系ドラマ「マザー・ゲーム~彼女たちの階級~」で主演。5月23日全国公開の「イニシエーション・ラブ」にも主人公の同僚役として出演。

撮影/Jan Buus 取材・文/石原たきび