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 ひと昔前から比べると転職に対するイメージは明らかに変わってきている。犬山紙子は、自身や周りの経験を踏まえて、こう指摘する。
「昔は一つの会社に入ったら、ずっとそこで働かなきゃいけないみたいな“圧”と、働き続けたら一生面倒を見てもらえるという2つのイメージが強かったと思います。特に、私の親世代にそういう考えを持った人が多いですよね。でも、私の世代や少し下の人たちはけっこう転職していて。終身雇用制が崩壊してきたことと関係しているのか、転職イコール“怖い”というネガティブな感じがなくなってきたのかもしれませんね。友達から転職の話をされても『えっ! 大丈夫?』というリアクションではなく、『へぇ~、今度はどういうところ?』って、普通に受け止めています。私自身も転職に対する印象が変わりました」
 彼女自身も、会社員からフリーランスに転職した経験がある。
「新卒で仙台の出版社に入社しました。そこを辞めた理由は母の介護だったんですけど、実はそれ以外にも理由がありまして…。私、入社して3ヵ月で13kgも太ったんですよ。でも、会社を辞めたらひと月で8.5kg痩せた(笑)。雑誌を作るという仕事は楽しかったんですけど、毎日出社してデスクに座り、お菓子も決められた時間にしか食べられないような勤務形態が性に合わなかったみたいです。考えてみたら、子どもの頃から誰かに時間を拘束されるのが苦手でした。だから、フリーランスは私にぴったり。出版社に勤めていた頃はストレスが溜まっていたんでしょうね。今は好きな時間に寝て起きて、お風呂に入らなくても、化粧をしなくても原稿を書くことに支障はない。子育てもあるので、時間のやりくりが自由にできて楽です。大好きなゲームもできるし(笑)」
 自分なりに新しい一歩を踏み出すために大切なものとは。
「転職先のことを何も知らないと、入ってからがつらいと思うんです。どういう社風なのかとか、ある程度探っておくことが必要なのかなと。今はSNSで調べることもできるし、実際に足を運んで見に行ってみてもいい。私の知り合いには入社する前にその会社の人と友達になって、自分に合う職場かどうかを見極めていた人がいました。そういうリサーチ力は大事なのかもしれません。それとプレゼン力も。私の友達は転職をするたびにステップアップしていて、それは自分の要望をしっかり伝えているからだと思うんです。あとは少しのハッタリ(笑)。私の場合は『下手だけど絵も描けます』と言ったら、絵の仕事も来るようになりました。できることはできると言ったほうがいいし、好きなものをはっきり示すと、自分の個性を活かせせるような気がします」
 現在はフリーランスだが、もし、転職するとしたら?
「私の場合、どちらかというと転職ではなく、今の仕事にプラスするイメージ。もう一つ、何か別のことをするという感じですね。何でもいいということなら、やっぱりゲーム関係がいいかな?(笑) ゲーム作りはルールも含めて天才にしかできないと思っているので『このゲーム、めちゃくちゃ面白いですよ!』って紹介するPR担当とか。ゲームを売り込むためにはどうすればいいのか、みんなで知恵を絞ったりして。とにかく、ゲームに関わってみたいですね。それが一番好きなことなので実現したら幸せです。天才にしかできないと思っているゲーム制作ですけど、もし好きなように作っていいと言われたら、大人も子どもも100%同じくらい楽しめるようなゲームを考えたい。できるかどうかはわからないですけど、面白いものを作って一緒に遊びたいです」
犬山紙子 いぬやまかみこ エッセイスト。1981年生まれ、大阪府出身。仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職。無職時代に書いたブログをまとめた書籍『負け美女』で注目を集める。現在は、テレビ、ラジオ、雑誌、Webなどでも活躍中。
特集 転職時代、はじまる。
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