デビュー作の『池袋ウエストゲートパーク』や直木賞受賞作の『4TEEN』、そして、松坂桃李主演の映画『娼年』(4月6日公開)の原作者としても知られる作家の石田衣良。連日の炎上騒動や過剰な報道で騒がしい日本を、こう感じている。
「いわゆる普通とか、日本人はこうでなければならないという部分からちょっとでもズレると、強烈なバッシングが起こる。そういう感覚はここ10年くらいでしょうか、正直ちょっと嫌ですね。ユーモアがまったくなくて、いつから日本はこんな潔癖なものを求めるようになってしまったのか。逃げ道を無くすようなバッシングは過剰だと感じます。人間ってそんな一面的じゃないのに、0か100かしか認めない。それ以外の同調を認めない。結局、SNSなどもまだ新しいツールで、使う方も成熟していない。子どもなんですよ」
SNSなどを大人として使うためには、どう振る舞うべきか。
「炎上した人をあれは自分だと思えば、自然と言葉を選ぶようになる。結局、自分が辛いからユーモアがないんです。恵まれていないと思っていると、ちょっと不運な人をどん底に突き落としたくなる。個々の不安をSNSがあぶり出している気がします。将来が見えないことと、身近な人が評価してくれないこと。その2つが不安の理由じゃないかな」
たしかに、炎上騒動の渦中にいる人が目の前にいたらSNSにあふれた辛辣な言葉を同じように浴びせるだろうか。恐らく、炎上に加担する多くの人も一度はだまり込んで、語りかけるべき言葉を模索する。
「次に話し始めたときは、身近な人に『ありがとう』などのほめる言葉をひとつ、付け足せるようになってほしい。そんな難しいことじゃないはずだし、それだけでもっと楽に生きていけるはず」
メディアやツールに踊らされて語るべき相手を見失い、言わなくてもいいことを発信してしまう現代。その一方で語るべきことすらもタブーとなってしまっているような印象もある。
「社会全体が悪い時代が続いて心がカチカチになっちゃっていて、だから何か問題が起こると、途端に激しい反応が起こる。心にゆとりがあって柔らかければ、難しいテーマも受け入れられるものなんです。言っちゃいけないようなタブーが増えていくこと自体、世の中が悪い方向に向かっている証拠なんですよね」
これまで彼が書いてきた小説には、マイノリティや少年犯罪、売春など、ともすればタブーとして避けてしまうようなテーマが多く並ぶ。
「僕自身は書き始めるとき、倫理観とかタブーとかは考えない。読者のために、でもないし、書いて自分が楽しめるかどうかなんですよ」
実写映画化される『娼年』は、『逝年』『爽年』と続く長編シリーズで、娼夫の男の成長を通し、人の持つ欲から目をそらさずに描かれる。
「短編でベッドシーンを書いていたらすごく楽しくて。毎回ベッドシーンがある話を書こうと思って始まったのが『娼年』です。ホントはもっと早く映像化したかったけど、こういう話だからなかなか実現できず。パートナーとセックスについて語れない日本の空気感って、セックスをすごく貧しくしている気がしますね。恋人には言えないけど浮気相手には何でも話す、みたいな。今回、舞台から映画になって、主演してくれた松坂桃李くんが本当に素晴らしくて……何より声が本当にいい。さっき対談したんだけど、その音声を雑誌の付録でつければと思うくらい。映画館のサラウンドであの声を聞いたら、素晴らしいだろうな(笑)。ぜひ楽しんでください」
『娼年』
4月6日(金)全国公開
2001年に発表され、直木賞候補となった石田衣良の同名小説を主演・松坂桃李、監督・三浦大輔で映画化。退屈な日常を送る20歳の大学生・森中領(松坂)は、会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香(真飛聖)に誘われ、"娼夫"となる。リョウはさまざまな女性たちと身体を重ねながら、彼女たちの心の奥に隠された欲望や心の傷を癒し、自らも少しずつ成長していく。
(配給:ファントム・フィルム)
http://shonen-movie.com/
(C)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会
石田衣良 いしだいら 小説家。1960年生まれ、東京都出身。1997年に『池袋ウエストゲートパーク』でオール讀物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。2003年には『4TEEN』で直木賞を受賞。著書に『眠れぬ真珠』、『北斗 ある殺人者の回心』、『アキハバラ@DEEP』『美丘』など。『娼年』、『逝年』に続くシリーズ最新作『爽年』は4月に単行本発売予定。