今回の“三池映画”に血は出ない(ほとんど)。新作『ラプラスの魔女』は東野圭吾原作の異色ミステリー。自然現象が絡む連続不審死を追う大学教授・青江(櫻井翔)の前に、これから起こる自然現象を言い当てる不思議な女・円華(広瀬すず)が現れる。青江は彼女とともに、謎の男(福士蒼汰)を追うことになる。
「広瀬と福士の2人にはどうやら未来が見えているらしいという話で。そんなのもう、演出不能ですよ(笑)。そもそもストーリーの根幹にあるのは地球化学で、『我々はなぜ生きているか』『宇宙はどうなっているか』みたいなスケールの話。簡単に『わかった!』というものじゃない。役者も手探りというか、演じながら相手の目を見て『あ。そういうことか』と理解しあうような感じ。でもすべてを理解して演じるより、楽しかったんじゃないかな」
撮影中は3人の『覚悟』に驚いたという。
「3人とも『これで大丈夫ですか?』とか、まったく言わない。そうした不安からくる疑問は、創作の邪魔になるだけだからね。彼らは年齢も背負っているものもバラバラだけど、その『覚悟』は共通している。肝が据わってるというか、さすがだと思いました」
バイオレンスに時代劇に『ヤッターマン』に『ジョジョ』……とにかく手掛ける作品ジャンルは幅広い。来た仕事は断らないと言われるが。
「それがオレの映画哲学かって? いや、作ってないと生きていけないだけ。それに『自分の作風はバイオレンスだ、社会派だ、アート系だ』っていうのは、結局は『そういうふうに生きたい』という自分の願望なだけで、映画には関係ない。だからオレは『ラブストーリー? やったことないけど、できるかな?』とやってみるし、ウルトラマンも撮る」
もともと“代打”として始まった監督業だ。
「Vシネマの助監督時代に監督がいなくなっちゃって、プロデューサーに『君、監督できない?』『いやあ、できなくはないですけど……』って(笑)。いまも台本で『ん?』って思っても、そこでぶつかりたくない。書きたいこと書き切っていれば基本『いいよ!OK!』。で、映画という場がうまくいくように調整するんです」
子ども時代から、そんな性格だったという。
「オレね、小さい頃ちょっと可愛かったんですよ。髪も長かったし、よく女の子に間違えられた。いやホントに。剣道を習ってて、あるとき胴着屋さんが道場に採寸に来たの。で『次そこのお嬢ちゃん』って言われて、でもオレは否定しなかった。だって出来上がる胴着は一緒だし。昔からそういう性格なの。監督としてはあるまじき、だよね(笑)」
作品に賛否両論があっても、反論はしない。
「主張したいことを映画で撮りつつ、かつ口で言う、みたいなのはおかしい。オレにとっては胴着屋のおっちゃんのときと同じですよ。『そう思ってるんだったら、まあいいか』って」
まさに「無口のススメ」だ。SNS時代を憂いているわけでもない。
「オレのフェイスブックとか、全部なりすましだからね。でも全て、放置(笑)。作品が勝手に解釈されたり、評価されるのと同じで、そういうのも勝手に出来た分身のようなもの。オレらはたまたまSNSというツールが出てきた時代にいるだけで、それによって人間の何かが変わったわけじゃない。昔からいじめはあったし、悪口も言ってた。SNSで人間のある部分が見えやすくなっただけ。ただ、将来的にこの時代を不毛に感じるかどうかは、そのときになってみないとわからないけどね」
『ラプラスの魔女』
5月4日(金・祝)全国公開
2015年に作家・東野圭吾が発表した異色作を、主演・櫻井翔、監督・三池崇史で映画化。警察から依頼され、連続して起きた2つの不可解な事件を調査する大学教授の青江修介(櫻井)は、事件現場で一人の女・羽原円華(広瀬すず)と出会う。円華は青江の目の前で、次に起こる自然現象を言い当てていく。戸惑いつつも、なりゆきで円華と行動を共にすることになった青江は、彼女が失踪した甘粕(福士蒼汰)という青年を探していることを知る。
(配給:東宝)
http://www.laplace-movie.jp/
(C)2018「ラプラスの魔女」製作委員会
三池崇史 みいけたかし 1960年8月24日生まれ、大阪府八尾市出身。今村昌平監督、恩地日出夫監督らの助監督を経て、多くのVシネマの監督を務める。 1995年に『新宿黒社会』で劇場映画監督デビュー。主な監督作品に『十三人の刺客』、『クローズZERO』、『悪の教典』、『無限の住人』など。
ヘアメイク/清水昌吾 スタイリング/前田勇弥