FILT

 マンガ家・岡崎京子。“退屈で息が詰まりそうな”90年代を過ごした若者にとって、その名前は特別な意味を持つ。このたび、代表作『リバーズ・エッジ』が行定勲監督の手により映画化された。主演は二階堂ふみ。23歳にして圧倒的な存在感を放つ女優が、原作に出合ったのは16歳のときだ。
「『ヒミズ』(園子温監督)の撮影中に美術スタッフから原作マンガを教えてもらったんです。17歳のとき映画化の企画が立ち上がり、そこから自分のなかでハルナという役を意識して過ごしてきた気がします」
 ハルナは川沿いの街で、空虚な日々を生きる女子高生。さほど好きでもない彼氏と無表情にセックスをし、同級生に「僕の宝物」だと河原に放置された死体を見せられても動じない。作品に通底するのは漠然とした不安や閉塞。自分と世界の間にある違和感。難しい役柄に思える。
「16歳のときはもっと自然に、共感して読んでいたと思います。でも10代から20代になって、自分のなかで感覚的に薄れていくものも感じていました。だから最初はちょっと怖い現場だったんです。でもやっていくうちに、いまの年齢で演じることができてよかったと思いました。役を俯瞰で見ることができたし、難しく解釈をせずに、自分が感じながら、役を生きるように演じなきゃダメだなと思えました」
 原作のコミックが発行されたのと同じ94年生まれだ。
「世代的にわからないと感じるものはなかったですね。ここに描かれているのはある時期に、誰もが感じる普遍的なもの。自分も10代の頃にものすごく腹が立ったり、何かを奪い合おうとする感覚があった。でもいつの間にか大人になって、よくも悪くもいろんなことに上手になっている。そんな自分に気づかされ、それを取っ払いたいと思ったんです」
 13歳で女優デビューし、17歳で映画初主演。順風満帆な役者人生にみえるが、ここ2年ほどは迷いもあった。
「10代は自然体で、本能的に演じていた部分があったと思います。でも20代になった頃から、頭で考えて演じることが多くなった。経験を積むと、逆に“感じる”ことから遠ざかってしまう。それに気づいた瞬間『やばい、お芝居するの怖い』と思ってしまって。一度『怖い』って感じると、その気持ちに囚われてしまって。そんなときにこの作品をやることになった。いまも怖さが解消できたかどうかはわからないけど、やりながら『怖いことは怖いと受け入れるしかないんだ』と、久しぶりに“体当たり”できた気がしました。実は主題歌を担当する小沢健二さんが映画を見に来てくださったんです。小沢さんに『似てたよ、岡崎さんに』って言われて。すごく嬉しかったですね」
 これまで、さまざまな役に果敢に挑んできた。人の目など気にせず、強い意志を持つ女優。そんなイメージがあるが、本人は意外にも「いろいろ気にしてしまう」性格だという。
「私、全然、強くないです。『ツウなものが好きそう』と思われているみたいですが、全然、フツーの人間です(笑)。パブリックイメージと違うことがつらかったり、影響されたこともあったけど、最近はそれも『まぁいいか』と思えるようになりました。自分で決めた道や、やりたいことは通さなきゃいけないな、と この映画で思い出しました」
 ときに常識やルールを飛び越して、ぴょんとあさってに飛ぶように。
「私、スケジュール管理が苦手で、明日なにをするかもわかっていないんです。自分がこれからどうなるかも、まだわからない。そういう意味では、ずっと“あさって”が続いている状態な気もします」

『リバーズ・エッジ』
2月16日(金)全国公開
岡崎京子の原作コミックを行定勲監督が映像化。河原に放置された死体の秘密の共有者となった若者たちを描く。それぞれに爆発寸前の何かを膨らませる友人たちの愛憎や孤独に巻き込まれる平凡な女子高生 ハルナ(二階堂ふみ)も、空虚な日々を送っていた。ある日、ハルナは新しい死体を見つけたという報せを山田(吉沢亮)から受ける。
(配給:キノフィルムズ)
http://movie-riversedge.jp/
(C)2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

二階堂ふみ にかいどうふみ 1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。2007年に女優デビュー、2011年 映画『ヒミズ』でヴェネツィア国際映画祭最優秀新人賞受賞。1月スタート、NHK大河ドラマ『西郷どん』に愛加那役で出演。また、文筆家やカメラマンとしても活動。映画公開待機作に『いぬやしき』(2018年公開予定)がある。

ヘアメイク/TORI. スタイリング/髙山エリ 衣装協力/ドレス\115,000(mimiwade)THE FOUR-EYED(info@thefoureyed.net)

CONTENTS