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 人は、嫉妬する生き物であることは言うまでもない。嫉妬心を抱くことは、どこか後ろめたさが付きまとう。『嫉妬のお作法』の著者で、心理カウンセラーの川村佳子先生はこう説明する。
「心理学では優越の欲求と言うのですが、人間は本来、誰よりも優れた存在でありたいという気持ちが備わっていて、その欲求の満足が脅かされたときに嫉妬心を抱きます。人間の自我は1歳半くらいから芽生えると考えられていますが、その頃にはいかに母親の関心をひくかということから嫉妬心も持つようになります。その後、発達段階を経て成長していくごとに世界が広がり、嫉妬を抱くきっかけになる対象も友人や同期だけでなく、所有物や財産、就職や出世などに広がっていきます」
 長く生きるほど、嫉妬心を抱える状況は増えていく。だが、多くの人はできれば嫉妬心を抱きたくないと考えているのではないだろうか。
「嫉妬心を抱くことは、ネガティブなイメージが強いので、できればひた隠しにしたい感情ですが、人間としてはごく自然なこと。ですが、その感情を自分で認めることができなかったり、表現ができなかったり、また共感されず誰かに強く否定されたりしてしまうと、大人と呼ばれる年齢になっても、嫉妬に振り回されてしまうことがあります」
 人は、嫉妬に駆られて、時に思いも寄らない行動に出てしまうこともある。では、嫉妬に振り回されない大人になるためには、どのようにすればよいのだろうか。
「まずは、嫉妬に限らず怒りや悲しみなどの望ましくない感情を自分の心の中から排除しないこと。この苛立ちは私がヤキモチを妬いたからだな、と認めること。普段から自分の感情を丁寧に扱えるようになると、大きな嫉妬の波がやってきても、それに自分で気づくことができます」
 人は楽しさや喜びなど、ポジティブな感情だけを大切にしがちだ。しかし、怒りや悲しみ、嫉妬であっても大切な自分の感情。悲しいときにはしっかり悲しみ、怒りを覚えたときにはなぜそんなに怒ってしまったのか、その感情に気づく。そうすることの積み重ねが、大きな嫉妬に出会ったときにも自分を見失わずにいられるのだ。
「自分の感情にきちんと向き合えるようになると、怒りも悲しみも、嫉妬であっても、どれも自分の大切な感情なのだと思えて、とても愛おしいものだと認識が変わってくる。望ましくない感情は排除したり、フタをしたりしがちですが、自分の大切な感情だという認識を持つことがポイント。時間が経って、気持ちの熱量が下がり、自然と忘れてしまっても構わないのですが、その前に自分の感情に気づくことは大切です」
 負の感情と向き合うのは辛い作業であると思われるが……。
「もちろん、すべてを自分一人で行う必要はありません。家族や親友など、信頼できる人と気持ちを共有したり、時にはカウンセラーなどの専門家を頼ったりしてもいいんです」
 そして、嫉妬は成長のチャンスでもあると川村先生はいう。嫉妬の対象の多くは自分の目標でもある。嫉妬と自己成長は表裏一体なのだ。
「嫉妬は自己成長のチャンスとエネルギーです。嫉妬で悩んだときには”成功”という名の実った果実にのみ目がいきがちで、成功した人の能力や努力、それまでのプロセスが見えにくい。嫉妬心を糧にして、自分だったらどう努力するのか、と立ち返ることで成長につながる。嫉妬は自分の憧れや目標に気付くことができるチャンスなんです」
 嫉妬心を剥き出しにして周囲を変えるのではなく、嫉妬を力に自分を変える努力をする。それが、大人として嫉妬と上手に付き合う方法だ。

川村佳子 かわむらけいこ 北海道出身。心理カウンセラー。官公庁、教育機関、一般企業などで産業カウンセラーとしてメンタルヘルスの相談支援業務を担当。同時に東京の六本木、北海道の札幌、函館でカウンセリングオフィスを運営。著書に『嫉妬のお作法』(フォレスト出版)がある。

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