FILT

 暴力的に、美しく。三池崇史監督作品『無限の住人』で、初の悪役に挑んだ福士蒼汰は、監督からそう指示されたという。
「僕が演じる天津影久は作品のなかでは“悪”の立場ですが、僕は“信念を貫いて行動している男“と解釈して演じました」
 人気コミックの映画化で、舞台は江戸時代。期せずして不死身の身体を得た万次(木村拓哉)が、天津に父を殺された凜(杉咲花)の復讐を手伝うことになる。天津は痩身の美男子にして、冷酷非道。古風な斧を操る武道の達人という設定だ。福士はクライマックス、全身から殺気をみなぎらせながら、血みどろの立ち回りを演じた。
「三池監督の現場は二度目ですが、今回はすさまじかったです。血のりに足をとられるし、人も大勢倒れているし、なにより寒かった!(笑)一番大変だったのは斧の扱い。実際に重くて、振るのが大変でした」
 主演の木村拓哉とは初共演だ。
「木村さんのすごさは"空気作り"だと思います。いい緊張感をくれるので、『それに応えなければ』と、自分が持っているものより強いものが出せた気がします。木村さんとのシーンでは、殺陣や型を意識するよりも、感覚で動くことができたと思います。気迫のぶつかり合いを表現できたかな、と」
 その迫力は、画面からほとばしるほどだが――
「でも木村さんとは、演技以外では、ほとんど話をしていない気がします。一緒にお弁当食べていても、僕は背筋ピンッ!という感じ(笑)。僕は姉が二人いるので、年上の女性といることには比較的緊張はしないのですが、年上の男性だと『どうすればいいかわからない!』みたいなところがあって」
 すらりとした長身に端正な顔立ち。嫉妬されてこそ、嫉妬することなどないような福士が、誰かに嫉妬する瞬間などあるのだろうか?
「自分にはないものを持っている人を見たとき……かな。例えばギターの演奏とか、自分がものすごく準備しないと出来ないものを、人がサッとやっている姿を見たとき。もちろんその人がそれを簡単にやっているかどうかはわかりません。でもそういう瞬間、嫉妬というか『自分もそうなりたい!』と思う。杉咲(花)さんに対しても思います。彼女は自分のペースを壊さずに、相手のペースに合わせられる人。撮影現場でみんなを笑顔にするし、和ませてくれる。いてくれると安心します。男ってなかなかそういうことができませんよね」
 好きな俳優は、エディ・レッドメイン。『博士と彼女のセオリー』、『リリーのすべて』――観ると、自分もこれを演じたいと思うという。
「どちらも実在の人物を演じていて、リアリティがある。自分もああいうふうになれたらいいな……なんて思いながら映画を観ています」
 間違いなく似合いそう。だが端正なルックスが壁になることもある。
「ガテン系がなじまない(笑)。俳優の太賀くんと友達なんですが、彼はなんでも似合っちゃう。これもある意味、“嫉妬”ですよね」
 もともと理系で、役者をやっていなければ外資系のIT企業にいたかもしれない、と笑う。役作りの方法も"理系"だ。
「あいまいなまま演じることは僕には無理。役を掘り下げて、何か一つ明確な答えを見つけて、その前後の幅で芝居をするような感じです。それが監督の考えと相違なければ、その先は何も考えずにやります」
 論理な思考の先にある「感覚」の力。その一端を、福士はこの映画で掴んだかもしれない。
『無限の住人』
4月29日(土)全国公開
沙村広明の同名コミックを三池崇史監督が映画化。天津影久(福士蒼汰)率いる逸刀流に両親を殺された少女・凜(杉咲花)は、“不死身の侍”万次(木村拓哉)に敵討ちの手助けを乞う。妹を失って生きる糧を見失っていた万次は、凜に妹の面影を重ね、敵討ちを手伝うことにする。
(配給:ワーナー・ブラザーズ映画)
http://mugen-movie.jp
(C)沙村広明/講談社
(C)2017映画「無限の住人」製作委員会

福士蒼汰 ふくしそうた 1993年5月30日生まれ、東京都出身。「美咲ナンバーワン!!」でドラマデビュー。「仮面ライダーフォーゼ」で人気となり、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」で日本中にその名を知られる。2014年に映画『好きっていいなよ。』、『イン・ザ・ヒーロ-』『神さま様の言うとおり』、で日本アカデミー賞新人俳優賞を獲得。主な出演作に『図書館戦争』、『ストロボ・エッジ』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など。公開待機作に『ちょっと今から仕事やめてくる』、『曇天に笑う』、『BLEACH』がある。

ヘアメイク/佐鳥麻子(Nestation) スタイリング/壽村太一(SIGNO) 衣装協力/ジャケット¥40,000、パンツ¥22,000(ノット メン/ジャンポールノット青山店・03-3486-2022)、シャツ(スタイリスト私物)

CONTENTS