FILT

鈴木杏 蒼井優
鈴木杏 蒼井優
思春期の少女の揺れ動く感情と、青春の輝きと焦燥を描いた岩井俊二監督代表作『花とアリス』。公開から10年以上が経った今もティーン世代の間で支持されている同作が、岩井監督のもと、キャストも勢揃いしてアニメーション映画『花とアリス 殺人事件』となって戻ってきた。この報せを最初にきいたとき、“あの花とアリスに再び会うことができるのか!”と喜んだ人は多いに違いない。花を演じた鈴木杏も、アリスを演じた蒼井優もまた同じような気持ちを抱いたようだ。
蒼井「当時は女優デビューしたばかり。この仕事を続けていくのかもわからなかった。でも『花とアリス』のアリス役で“蒼井優”という存在を多くの人に知ってもらえて、そのことが私の女優としてのひとつの転機になりました。そんな大切な作品に再び出逢えるなんて夢のようでした」
鈴木「実は『花とアリス』はもう1度何かあるという気がしていたんです。それは“もう一度、花を演じてみたい”と私自身が心のどこかで期待していたのかもしれません」
今回のアニメで描かれるのは花とアリスの前日譚。転校してきたアリスと、ひきこもりの花の最初の出会いが描かれる。つまりふたりは10年以上が経ったいま、かつて演じた花とアリスよりもさらに若いころ、中学3年生、14歳の花とアリスを声で演じることになった。
鈴木「10代の声を出せるのかという不安以上に、私は花にきちんと再会できるのかがもう不安で、不安で。でも、記憶の中の扉をノックしてみたら、きちんと花が存在して私を待っていてくれた。いままで役は自分の体を通り過ぎていくものと思っていたけど、そうではなくきちんと残ってくれている。そのことが身をもって実感できて、すごく幸せな気持ちになりました」
蒼井「最初、ブースに入って声を出したとき“声が太くなったなぁ”と思って(笑)10代のころはもっとキーが高い気がしたので“大丈夫かな”と。それで不安だったんですけど、とにかく10年前のあのとき演じたアリスを大切にしようと、当時の記憶を甦らせながら取り組みました」
鈴木杏 蒼井優
花とアリスは傍から見ると無駄に思える遠回りやじれったくなる時間をかけ、関係を深める。実はこういう無駄なあがきや無駄な時間が振り返るとかけがえのない日々に変わりゆくのかもしれない。そう考えると無駄も悪くはない。
鈴木「いま振り返ると、わたしも花と同じ中高校生のころ無駄に気持ちばかりが先走り、いろいろなことに無駄な力が入っていた。たとえば子役からずっとこの世界にいたので、高校生ぐらいのときすでに“現場ではこういるべき”みたいな勝手な固定観念にがんじがらめに縛られていたりして、鬱屈として悶々とする日々を送っていました。でもこういう体験も、普通の人にとっては無駄かもしれないけど、役者の仕事にはすごく役立つんです。それこそダメな恋愛も、あまりおいしくない食事をしてしまったことも、友人との無駄なおしゃべりもすべてが役を演じる上でのすばらしい栄養素になってくれる。そう考えると、私にとって無駄なことはすごく大切なもの。もしかしたら、俳優ってすべてを無駄にしないおもしろい仕事かもしれません」
鈴木杏 蒼井優
“無駄もまた悪いものではないかもしれない”。この言葉を受けて蒼井は自身の高校時代を引き合いに出し、こんなエピソードを明かしてくれた。
蒼井「高校に入学したとき、自分は“イジメにあいたくないし、加担もしたくない”ということで自らに課したことがありました。それは男子と目を合わせないことと、親友を作って、3年間彼女とだけ過ごすこと(笑)。でも、卒業直前に大親友だった彼女とちょっとしたことから大喧嘩になって、もう関係が修復できないぐらいになってしまった。そうしたら、ほとんど話したこともないクラスメイトまでが私たちのことを心配してくれて。クラスメイト全員が私たちが仲直りできるように動いてくれたんです。このとき、痛感しました。“自分はなんて無駄なことを課していたんだろう”と。そのことに無駄というか遠回りをしてやっと気づいた。近くにあっても遠回りしないとわからないことがある。無駄と思っていた時間が、実は大切な何かを育んでいたりする。案外、この世界に無駄はないのかも」

鈴木杏 すずきあん 東京都出身。テレビドラマ、映画はもちろん、数多くの舞台で活躍をする実力派女優。舞台の「奇跡の人」や映画「さよなら渓谷」など数多くの話題作に出演。特に映画「軽蔑」では新境地を切り開き、その女優としての存在感を確固たるものとした。2月20日より「花とアリス殺人事件」が全国で公開される。

蒼井優 あおいゆう 福岡県出身。みずみずしい存在感と女優としての演技力の確かさで数々の話題作に出演。最新作「花とアリス殺人事件」は’04年公開された映画「花とアリス」の前日譚となる。当時共演した鈴木杏、そして岩井俊二監督と再タッグを組み”花とアリス”の出会いの物語を新たに描いたアニメ作品。

CONTENTS