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久保田利伸
久保田利伸
 2013年に久保田利伸が発表した、初のボサノバ・アルバム『Parallel World II KUBOSSA』に意表をつかれたという人は多いのではないだろうか。そしてまた、新たな感動を覚えたという人も。あの唯一無比のソウル・ボイスが、ボサノバのクールでジェントルなサウンドに見事なまでにハマっていたのだから。「ボサノバ好きなんですよ。R&Bは長年聴いているし、知識もあると思うし、オリジナルはR&Bの匂いがするものを作っているわけですが、ボサノバは休む時に必ず聴くんです。昔は休む時もR&Bだったんですけどね。ボサノバをレコーディングするのは初めてで、ソウルフルに歌う癖がついているので最初は大変でしたね。聴く分には楽でいいなと思っていたんですけど、意識しないと優しく歌えなくて。でもレコーディングじゃないつもりで歌えるようになったら、うまくいきました」
久保田利伸
 このアルバムを作ったことで、「R&Bやソウルをやることの新鮮さと楽しさを改めて感じた」と語る久保田利伸が、約3年半ぶりとなるオリジナル・アルバムをリリースする。本稿執筆時点で内容の詳細はわからないが、本人いわく「やっていることは新しいけど手触りとしては温かい。結果それをポップという言い方もできますけれども」とのこと。決して敷居が高いマニアックなものではなく、広くポップ・ミュージックファンがアクセスできる作品になりそうだ。アルバム・タイトルは、『L.O.K』に決定。これはネイティヴな発音だと“エロケイ”(エロK=エロ久保田)と発音するようで……。
「そういう解釈でも、もちろんいいんですけど(笑)、『L.O.K』は『Lots Of Kisses』の略なんです。誰もが自分のことや人のこと、世の中のことを考えながら生きていると思うんですが、
久保田利伸
ここ1、2年で僕は、いろんなことがありがたいと思うようになったんです。そして、何かにつけてそういうふうに考えると、世の中がもっといい雰囲気になるんじゃないかなって。ものごとがうまくいかない時に、自分を突き詰めるのはいい。でもそれで周りが見えなくなってしまったらよくないし、何か大事なことが忘れられているように思うことも多かったので。ちょっと偉そうな感じですけど、感謝ですよね。その感謝を表す言葉の中でも、アメリカでよく手紙の最後に書く“Lots Of Kisses”が一番合うかなと」
 日本中に衝撃を与えたデビューから、2016年には30周年を迎える久保田利伸。まさにリビング・レジェンドと呼ぶべき、ジャパニーズR&B/ソウルの先駆者の輝かしいキャリアにおいて、果たしてムダなどあったのだろうか? すると、「この30年を振り返ると、その明ら
かな答えがひとつあります」と彼は言う。
「ニューヨークに10年以上拠点を置いてきて、アメリカでCDを出すってなると1年前くらいから作り始めて、いったん作ったものをレコード会社に聴かせて、『もうちょっと違う形でまた再来週聴いてみよう』みたいな話になるんですよ。その間に日本でできることがいっぱいあるのにと思いながら、時間だけを費やすわけです。10年以上『今日は仕事としてやることがないなあ』みたいな日が、たくさんあったんですよね。だけど、知らない文化、生まれ育ったところと価値観が違う場所にいたことで、音楽よりも社会…世の中と人間について学んだと思う。あの時がなかったら、今の僕にはなっていませんから。その真っ只中にいる時はムダだと思ったけど、今にしてみれば本当に大事な時間だった」
 そう、世界の大きさと自分を知る彼の歌だからこそ、心に届くのだ。

久保田利伸 くぼたとしのぶ 静岡県出身。R&Bを広く日本に広めた第一人者であり、現在もアーティストとしてその存在感を放つ。3月18日(水)にはニューアルバム「L.O.K」をリリース。その後、全国各地を回るツアーも4月24日(金)のハーモニーホール座間を皮切りにスタート。詳しくはwww.funkyjam.com

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