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 映画『酔うと化け物になる父がつらい』で、アルコールに溺れる父に振り回される娘・サキを演じた松本穂香さん。タイトルを聞くとひるんでしまいそうなシビアさだが、映画は予想外のぬくもりと、やさしい風合いを併せ持っている。
「最初に題名を聞いたときは、正直、大変そうだなと思いました。でも監督とお話しするうちに、題材はヘビーだけれど、原作マンガが持つコミカルなかわいらしさを大事にできればいいなと思ったんです。実話だからと気負わずに、これまでどおり役に向き合おう、と決めました」
 サキの気持ちを想像するのはたやすくはなかったが……。
「私自身ここまでの問題はないですが、誰しも父や家族に対してモヤモヤを感じたことはあると思います。本作では、その経験を大きく膨らませて演じました」
 思春期に家族とぶつかる経験は、誰にでもある。
「家族って難しいですよね。母親だからきっとわかってくれるだろうとか、父親らしくあってほしいとか。絶対的な味方だからこそ、難しい。それにサキはどこかで自分を責めているんだと思います。自分がそういう人を引き寄せてしまうのかもって。そのことで自分を保っている部分があって、だから父親と同じようなダメ彼氏にもつかまってしまう」
 父娘のすれ違いやディスコミュニケーションを表現するため、父親役の渋川清彦さんとは、一切現場で話をしなかった。
「印象的だったのはサキが一度だけお父さんに怒鳴るシーンです。サキがずっと溜まっていたものを吐き出すシーンでもあった。長回しで緊張しました。ですが、直前までボーッとしていた記憶もあります。それだけ自然にサキでいられたんだと思います」
 様々な事を考えさせつつ、重くなりすぎない描き方が好きだという。
「このお父さんが酔っ払っている姿は、端から見るとかわいらしいんですよね。当事者は絶対に苦しいはずなんですが、だから余計に映画を見終わったときに切なくなる気がします」
 同じような状況にある人に、何かが届くことを願っている。
「アルコールだけじゃなく、家族の問題に悩んでいる人は多いと思います。実際に私の友達にもそういう子がいました。劇中でサキが言う『よその家の普通がうちにとっては特別だ』というセリフを、私は何度もその子から聞いていたんです。でもそういう人の声が広く伝わる機会は少ないですよね。この映画ですぐに誰かが救えるわけでも、答えが見つかるわけでもないけれど、でも、何かを考えるきっかけになれたらうれしいなと思います」
 高校在学中から芸能活動を始めた。
「俳優以外の道は考えられなかったです。高校時代に演劇部で、まわりに刺激も受けました。お互いのお芝居を講評し合ったり、ケンカもしましたけど、あの頃の経験がいまにつながっているなと感じます」
 高校卒業後、少しだけ将来を不安に思った時期もあった。
「年下の子が映画やテレビにどんどん出ていくのを見て、不安に思ったこともあります。でもサキがマンガを描いたように、私にとって俳優という仕事がそういう存在なのかもしれません。内にためた思いを、サキはマンガを描くことで消化する。私は役で発散していく」
 お笑いが好き。応援しているのはジャルジャルだ。
「普通にファンで単独ライブを見に行ったりしてます。大阪出身ですから、お笑いを見る目には少しプライドがあるかもしれません…(笑)」
『酔うと化け物になる父がつらい』
3月6日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
漫画家・菊池真理子の同名コミックエッセイを、新鋭の片桐健滋監督が映画化。田所サキ(松本穂香)の記憶にあるのは酔った父の姿ばかり。父・トシフミ(渋川清彦)が酔って“化け物”になって帰って来る日には、カレンダーに赤いマジックで×印をつけるのがサキの習慣だった。
(配給:ファントム・フィルム)
https://youbake.official-movie.com/
(C)菊池真理子/秋田書店(C)2019 映画「酔うと化け物になる父がつらい」製作委員会
松本穂香 まつもとほのか 1997年生まれ、大阪府出身。主演短編映画『MY NAME』で俳優デビュー。ドラマでは連続テレビ小説「ひよっこ」「この世界の片隅に」「病室で念仏を唱えないでください」などに出演。映画は『おいしい家族』『わたしは光をにぎっている』と主演作品が続き、今後も『みをつくし料理帖』の公開が控える。3月6日公開の映画『酔うと化け物になる父がつらい』では主人公のサキを演じている。
特集 応援を、習慣に。
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