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「メインになってしまったら、もう寄り道じゃない」と話す尾関さん。BSプレミアムで放送中の『2度目の旅』『一本の道』を担当し、かつて『ブラタモリ』を世に送り出したNHKのプロデューサーだ。
「当時、新しい番組を開発する部署に居て、最初はタモリさんが3億円事件のあった場所を巡るという企画でした。それをみんなで話していく中で、タモリさん自身が普段から古地図を持って都内を歩いていらっしゃるということから、街歩きや探検という形になっていった。そのときは寄り道というテーマでは考えていなかったですね」
 番組には台本はあるが、出演者には見せないというから驚きだ。
「台本を頭に入れて歩いてしまうと、それはもう本筋。台本を見せないことで、あの寄り道感が出たんじゃないかと。結局、台本に無い寄り道のほうが面白かったりして、本編に入っちゃうんですよ(笑)」
 現在、担当する『2度目の旅』は再訪だからこそ定番を外してディープな穴場を紹介する海外旅行番組で、『一本の道』は欧州の道を何日もかけて歩きぬく紀行番組だ。どちらも、どこか“寄り道感”がある。
「考えてみると、これも寄り道ですね。『2度目の旅』は海外旅行が一般化されてきた中で、本来はメインを見る際の“寄り道”だった部分を並べた番組です。『一本の道』もタイトルは本筋に見えるんですけど、歩く2人にとっては、日常の中にある寄り道感がすごくある。番組中、2人の発見しているものを聞いていると“人生の寄り道系”なんですよね。なんかテーマに合わせてうまいこと言ってる感じですけど、本当にそう(笑)。と言うか、僕のやっていることって全部が寄り道なんです。その番組がなくても生きていけるんですけど、見ると何かちょっとプラスになるような…。そういうものなら自分はできるのかな、と」
 寄り道には発見や気づきがあふれていて、とても魅力的だ。だが、本筋を逸れることで、遠回りしたり、遅れたりするリスクもある。
「安全な道が寄り道とは限らない。サボっていることも寄り道というならば、そこにはある種のリスクがある。寄り道は気軽に使われがちな言葉ですが、本当は勇気のいることなんですよ。それに今の時代、『どうやって寄り道したらいい?』っていう疑問が出てくる可能性もありそうです。多分、寄り道をせずに、与えられたことをやったほうが楽ですから。本道を歩くには理性的に教えられた部分が必要で、人にとってそれも重要ですが、寄り道には動物的な本能の部分が必要ですから」
 寄り道に必要な本能。現代はそれが薄れてきている印象がある。
「例えば今日、ここに来るまでに、モグラの穴があったんです。それを『何の穴かな?』と、気づく人もいれば、何にも引っかからない人もいる。例え毎日通っている道だったとしても、そういう小さな変化に自分の力で気づけるかどうか、ということなんです」
 現代は誰かが発信した二次情報を受け取るだけで、多くのことを知ることができる。だが寄り道で得た情報は自分の力で手にした一次情報。何を見つけ、何を感じたか。その本能的な部分に個性が見えてくる。
「本道では、自分の発見を誰かが褒めてくれる可能性があるけど、寄り道はそうじゃない。“良く見つけたな”と自分で褒めてあげることが大切で、すごくハードルが高いことのはずなんです。個性を自覚して、自分を認められるかどうか。寄り道こそ、自分と向き合うことなんです」
 寄り道で見えてくる個性。それを知ることで本道が華やぐのだ。

尾関憲一 おぜきけんいち NHK編成局コンテンツ開発センター・チーフプロデューサー。1988年NHK入局。『BSマンガ夜話』『BSアニメ夜話』『熱中時間 忙中“趣味”あり』『天才てれびくん』『東京カワイイ★TV』『ブラタモリ』など、数々の人気番組を担当。現在は『2度目の旅』『一本の道』(ともにBSプレミアム・火曜夜10時放送)を担当。

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