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 これまでに『みちくさ』というタイトルの本を3冊出版している女優の菊池亜希子さん。その名の通り、色んな町でみちくさをくいながら、出会ったものごとや食べ物のことなどが綴られている。
「私が過ごしている何気ない日々のことをエッセイにしています。目的地にたどり着くまでの間に、ところどころでつまみ食いしてる感じが、『みちくさ』というタイトルにぴったりだと思ってつけました」
 この日、取材場所として訪れたのは、平井駅近くにある喫茶店「ワンモア」。「ここのフレンチトーストと旬の果物のジュースが大好きなんです」と笑顔をこぼす。
「喫茶店を見つけたら、とりあえず行き先を方向転換しても寄り道をするのが癖で。『ワンモア』はホットケーキにハマっていた頃に、ちょうどみちくさくってる途中で、出会った誰かに教えてもらったんです」
 散歩は「意識してしようとしているわけじゃない」という菊池さん。一日の仕事が終わったら、まっすぐ家に帰る人が多い中、なんとなく寄り道をしてしまう。電車で一本のところをわざとバスに乗ってみる。ひと駅前で降りて歩いてみる。ルートをいろいろ考えてしまうという。
「食欲と一緒で、みちくさ欲というものがあって、やらなきゃいけないことばかりに追われて、それしかやっていない日々だと、本能的にだめだって思っちゃう。ちょっと無駄だと思うような時間を過ごせるのって自分に余裕があるときだと思うんです。だから忙殺されそうになると、ちょっとでも休みの時間を見つけて、町をあてもなくぶらぶらすると、楽しくてすごくリフレッシュになるんですよね。出会った人とたわいもないおしゃべりをしたりして、よみがえるっていう感じです」
 モデルをはじめ、CMや映画などで女優として活躍する傍ら、執筆業や編集長業務なども行っている菊池さん。それもまた寄り道のようで。
「今までやってきたことって、たまたま出会った人と仕事をすることによって生まれることが多くて。たとえば編集の仕事も、自分でやりたいと思っていたわけではなくて、やってみない? と誘われて、できるのかな? と思いながらも実際やってみたらすごく楽しくて。ふらり寄り道してみたら、すごく面白い物を見つけた! そんな感覚です。そういうときに自分でしっかり立ちすぎていると、なびきにくかったりするから、常に柔軟に、軽やかに、凪いでいる感じでいたいなと思ってます。いい意味で受け身でいることで、世界が広がることがあるので」
 公私ともにふらり寄り道好きの菊池さん、その極意を聞いてみた。
「まず、効率よくしようとしないこと。今はスマートフォンで目的地までの最短距離を調べられるから、無意識にそのルートしか使わなくなってしまう。でも昔より時間短縮されたはずなのに、なんだかみんなせかせかしている。一度、地図を見ないで歩いてみるのもいいんじゃないかな。それで自由になることもあると思う。あとは、人とおしゃべりすること。海外だと特に感じることだけど、日本人ってシャイだから、店に入っても挨拶しない人が多いような気がします。会釈だけでもいいのでここに来ましたよ、という合図をする。そこで新しい情報を得られることがあると思う。最後に、失敗を恐れないこと。食べ物でもなんでも、無難な方を選ぶよりは、ひとりでもトビラを開いてみる。そういうときに出会ったものが一生物になったりすることもあるから、ちょっと勇気を出して少し一歩踏み出してみると、新しい世界が開けると思います」

菊池亜希子 1982年8月26日生まれ、岐阜県出身。ファッションモデルや女優業の傍ら、イラストやエッセイなどでも活躍。「菊池亜希子ムック マッシュ」(小学館)では自らが編集長を務める。「みちくさ1~3」「絵本のはなし」「またたび」が好評発売中。出演映画『二度めの夏、二度と会えない君』が今年の秋に公開予定。

ヘアメイク/吉川陽子 取材協力/平井「ワンモア」

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