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 小説、エッセイ、漫画・アニメの原作。次から次へと作品を発表する"多作"のイメージが強い福井さんだが、作家デビューはじつは遅い。きっかけは、警備会社に勤務するかたわら江戸川乱歩賞に応募した『川の深さは』という作品。これが、選考会で大きな話題となった。
「ビルの警備室に詰める仕事だったんですが、とにかくヒマ。することがないから小説でも書いてみようってのがきっかけです(笑)」
 翌年応募した作品が江戸川乱歩賞を受賞し、専業作家となる。以来、精力的に作品を発表し続けているが「俺は仕事人間じゃない」と言う。
「キャリアアップするための階段を昇っていると、倒産したり、業態そのものがダメになったりって経験を何度かしまして」
 そのせいか成功のためにはこうしろ、と型にはめられるのが苦手という。小説市場が縮小していくなか、福井さんは映像方面にシフトする。
「今は完全に脚本家。はっきり宣言したわけじゃないんだけど、気がついたらそちら方面の依頼ばかりに(笑)。仕事のスタイルはずいぶん変わりましたね。小説家の時は、たしかに朝起きたらすぐに仕事机に座るという生活だったけど、脚本の仕事は外での打ち合わせが大事だし、執筆の際もシビアに言葉をはめ込むことが求められる。前者が弾を撃ち続けるマシンガンなら、後者は一発一発狙って打つ狙撃です」
 仕事人間であることを否定したものの、アイデアが出てこない時は丸一日机の前に座っている。さらに、趣味を聞くと「うーん、映画ぐらいかな」。余暇の時間も映像のことを考えているのだ。しかも、映画館に行く時間がないため、もっぱらDVDで観るという。酒は好きだが飲み歩くこともない。
「映像の仕事は面白いですね。小説と違って関わるスタッフが大勢いるから、そういう他人との関わりが刺激になる。可能な限りロケハンにも行くし、気分転換の手段は小説とは比べ物にならないぐらい多い。まあでも、この仕事は精神的には休日ゼロだから、そういう意味では仕事人間かもしれません」
 脚本家から小説家になるケースは多いが、逆のパターンは珍しい。「なので、脚本で呼ばれても作家的な立ち回りを期待されることが多いんです。その『どちらにも当てはまらない』立ち位置が心地いい。居場所を決めちゃうと、どうしても守りに入ってしまうから」
 小説と映像では大きく異なる点もある。過去の小説では経済や国防問題を題材にしたが、各論ではなくもっと根本的なテーマを突き詰めたくなったという。
「実写映画では限界があるけど、アニメだとカリカチュアできる分、表現の幅が広がります。こないだやった『ガンダムUC』でも過激派などの問題について踏み込んでいて、そのままだとテレビじゃ流せない内容も、アニメなら置き換えられる」
 仕事で一番感動する瞬間について聞いてみた。
「初号の一歩手前のダビングとかの時ですね。そこで初めて画と音と効果音が一体になって、完成形に近いものが見られる。イメージ通りにできた時は感動ですよ。小説や脚本を書き上げた時は、あそこまでの感動はない」
 現在2、3年先まで脚本の仕事で埋まっているという。復帰を望むファンも多そうだが、もう小説は書かないのだろうか。
「これを読んでるあなたが手に取ってくれるなら、いつかは(笑)」
『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』
1974年にテレビ放送され、社会現象にもなったアニメ『宇宙戦艦ヤマト』を、新たな解釈を加えてリメイクした『宇宙戦艦ヤマト2199』。2012年にスタートし、2014年の劇場版をもって終了した『~2199』の続編となる、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の製作が決定した。脚本・シリーズ構成/福井晴敏、監督/羽原信義、製作総指揮/西﨑彰司らによる、新しいヤマトが動き出す。作品の詳細は公式HPへ。
http://yamato2202.net/

(C)西﨑彰司/宇宙戦艦ヤマト2202製作委員会

福井晴敏 ふくいはるとし 1968年生まれ。東京都出身。1998年『Twelve Y.O.』で作家デビュー。『亡国のイージス』、『終戦のローレライ』、『戦国自衛隊1549』、『機動戦士ガンダムUC』、『人類資金』など数々のヒット作を執筆。その多くは映像化されている。現在は、脚本家として、ライブイベント『GUNDAM LIVE ENTERTAINMENT 赤の肖像~シャア、そしてフロンタルへ~』や、CGアニメ映画『キャプテンハーロック -SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』などに携わる。また、製作が発表されたアニメ『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』のシリーズ構成・脚本を担当する。

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