今年は今後の予定も含めると出演映画が実に9本も公開。傍から見ると、すでにこの状況がワーカホリックに思えてしまう俳優の池松壮亮さん。「そう映るでしょうね」と認めつつ、本人はこう続ける。
「ただ、僕には仕事の定義が難しい。世間一般で言うと、仕事って生活の糧というか。人が食べて生きていくためにせざるをえないものといった意味合いが強いですよね。生活するために、否応なくしなくてはいけないもの。だから、面倒なことでもやらないといけない場合がある。そんな風に考えると、自分の仕事はそこに当てはまっていない気がして。幸いにして、本当に自分が好きなことしかこれまでやってきてないんです。まあ、すべてが本望だったとまでは言いませんけど（笑）。10代前半で活動を始めたので、気づいたら"仕事"になっていた、という感覚もあって。はっきりと"仕事"と言い切れないところがあるんです」

　その上で「仕事人間か？」と問われれば間違いなくそうだと明かす。
「よく、仕事か？　それともプライベートや家庭を取るかという質問がありますけど、現時点では完全に仕事です。はっきり言って普段の暮らしとかは二の次。今はプライベートなんてどうでもいい。それほど役者の仕事と心中するぐらいの覚悟で取り組んでいる。それでいて仕事とは思っていないところがあるんですけど（苦笑）。役者業は現在の自分を成立させてくれているというか。もし、今この役者という仕事を取り上げられてしまったら、自分が自分でなくなってしまう。いや、それどころじゃない。自分という人間が無くなってしまうかもしれない。それら全てをひっくるめると、完全に今は仕事人間なんでしょうね。今の状況は悪くないです。面白いかは分からないですけどね。ただ、いつか『仕事より家庭』と言える日がきたら、という気持ちも少しあります」

　当たり前だが、役者はいろいろな人間を演じるもの。その役の職業も千差万別だ。もしかしたら、仮とはいえ、役者ほどいろいろな職種＝仕事を体験する人間はいないのかもしれない。9月10日に公開された出演映画『だれかの木琴』では、美容師の山田海斗を演じている。
「この役を演じるにあたって、いろいろと学んだんですけど、すごくお客さんと近いんですよ。単に髪を切るだけではなくて、その人の心に触れてしまう瞬間が多々ある。例えばカットするときに、少し髪に触れるだけでその人がリラックスしているか、それとも逆に緊張しているのかが、手に取るように分かってしまう。その人の心の変化が、敏感にこちらに届いてくる。嫌なところに触れてしまったときも分かりますから、怖いですよ。美容師って華やかでおしゃれなイメージがありますけど、それだけじゃない。人の心に触れる大変難しい仕事だと思いました」

　作品は、そんな美容師として働く海斗と、常連客となって彼のもとへと通い詰める平凡な主婦、小夜子（常盤貴子）ら現代の日本を生きる人間たちの物語。『橋のない川』『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』などで知られる名匠、東陽一監督が、井上荒野の同名原作をもとに、現代人の孤独と満たされぬ心を描き出している。
「僕の演じた海斗に常盤さん演じる小夜子がストーカー的に執着するとなると、ドロドロの愛憎劇をイメージすると思うのですが、これが全然違う。東監督はそこからさらに人間の心の深い領域に分け入り、ふとした瞬間に訪れるやるせなさや寂しさ、どうにも埋めることのできない孤独を浮かび上がらせる。その上で、あらゆる人間を否定することなく優しく肯定する。 人間の本質や魂を見つめた映画だと、僕自身は感じました。一人でも多くの方に見ていただけたらうれしいです」