今どきの仕事人間とは、周囲を巻き込みつつ、次々と面白い仕事をこなしていく人のこと。そういう意味では、山田孝之が2010年から演じ続けてきた『闇金ウシジマくん』シリーズの丑嶋馨も仕事人間であるように思える。非合法だが、仕事に対してポリシーや哲学があり、ブレることはない。だが、演じた本人は「よく分からない」という。
「そういう部分について、これまで考えて来ませんでしたから。丑嶋という男は周りが作ってくれたもの。丑嶋を怖がる人がいることでその恐ろしさが伝わるし、慕う仲間たちがいることでカリスマ性が出てくる。演じると言うよりも、丑嶋という型に当てはめていく感じなんですよ。表情や視線の角度、どのタイミングでどこまで動くか。すべて型にはめていくだけ。その型を掴むまでは大変でしたけど、型が完成したらあとは周りが作り上げてくれました」

　9月22日（木・祝）、10月22日（土）と、連続公開される映画で、シリーズはついにファイナルを迎える。劇中では"秒速1億円を稼ぐ男"や"過払い金の返還請求"など、現実でもどこかで耳にしたことのあるようなエピソードが次々と登場する。さらに、かつての同級生が訪ねてきたことによって丑嶋の過去も明らかにされていく。
「リアルに看板やメディアなどで目にするようなことばかりですよね。そこは本当に、原作者の真鍋昌平さんや山口雅俊監督のリサーチの凄さです。僕自身、本当にいい映画になったと思っているし、しっかりとこの作品を終えることができたので、絶対に観てほしい。丑嶋の過去をちょっと知れたこともうれしかった。だからザ・ファイナルを観る前に、これまでのシリーズを観ておいてほしいですね。ザ・ファイナルでちゃんと終わるようにやってきたので」

　ここ数年で山田孝之は映画やドラマというこれまでのフィールドに加え、ミュージカルへの挑戦や親交のあるミュージシャン・TEEのMVの監督や、赤西仁とのユニットの結成など、仕事の幅を広げつつある。
「監督の話は、実は一度、断っているんですよ。でも『会って話を聞いてくれ』って言われて、いきなりラップでその思いの丈を伝えてきたんです。最初、正直ちょっと引いたんだけど（笑）、でも、あっちは本気で。本気を見せられたら、そりゃ断れないし、こっちも本気でやるしかない。仁とのユニットのことも、エイプリルフールの後に、仁から『マジでやってみない？』って来て、俺も『いいね、やろう』ってすぐ返事して。いろんな批判や意見が来ることも分かってるけど、そういうことも含めて楽しみ。子供の時にイタズラをして、どんな反応をするんだろうってワクワクするような感じ（笑）」

　朴訥な武士や気弱なオタク、お人よしの勇者まで変幻自在にどんな役にもなりきる山田孝之という俳優。そのストイックさには仕事に対する信念が感じられる。仕事を全力で楽しみ、周囲を巻き込んで働く人のことを仕事人間とするなら、彼本人も「間違いなく仕事人間」だと話す。
「そう考えるようになってきたのは、ここ３年くらいのことですね。どんな時にでも、どうやったら楽しい仕事ができるか？　って考えるようになりました。それこそたまたま酒の席で隣に座った営業職のサラリーマンと、もし一緒に仕事をするならどんな面白いことができるだろう？とか考えてみたり（笑）」
　そう微笑む彼の瞳は、早くも次に取り組むべき本気の仕事を見据えているようだ。周囲の声を楽しみにしながら仕事に邁進する山田孝之という男は、やはり根っからの仕事人間なのだ。