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 テレビやラジオでレギュラー番組を持ち、YouTubeやライブでも活躍。昨年出版された初のエッセイでは、その文才にも注目が集まった。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだが、本人に気負いはなく、あくまでフラットなスタンスで現状を楽しんでいるようにも見える。
「最近はちょっと忙しいですけど、仕事は全部おもしろいですね。芸人としての目標はあるにはありますけど、それほど大げさなものではなくて、楽しく暮らせたらいいと思っています。今、ちょっと良い洗濯機が欲しいんですけど、そういうものが買えて、家賃が払えていれば、それでいいかなと。仕事がたくさんあれば成功というわけじゃないですし」
 芸人として身を立てるまでは、スナックでアルバイトをしたこともあった。
「昼職で働いていた時期もあるんですけど、まず朝が起きられないし、遅刻もするし、向いていませんでした。これは、しっかりと働いている人に申し訳ないなと。水商売は給料が良くて、お笑いライブなどもあったので、短期間で稼ぐにはちょうどいいんですよね。遅刻しても“こらっ!”で終わるみたいなゆるい空気感もあり、居心地は良かったです」
 テレビなどでの飾らない言動は、スナックでアルバイトをしていたときから変わっていない。実は当時、20軒近くの店を転々としている。
「初日でクビとかザラですよ。今はないですけど、お客さんにちょっと嫌なこと言われたら、返す刀ですぐ“なんやねん!”と言い返していたので、ママから“もう来ないでいい”と。いろんなお客さんがいますから。仕事帰りに静かに一杯飲みたい人とか、過剰なほめそやしはいらんみたいな人とは相性がよかったんじゃないですかね」
 スナックでは、こんな出来事もあった。
「ある年配のお客さんが、“今の首相知ってるか?”とか“新潟の潟の字書けるか?”とか聞いてくるんです。わからんふりしてたら、“わからへんやろ、ぎゃはははは”って。 あまりにもしつこかったから“ちゃんと知識があって、基礎があるからアホなふりができんねんで!”と怒りました。その後、それを上回るくらい私がママにバチギレされましたけど(笑)」
 一方、自己主張をしないことで後悔したこともあったという。
「昼職では事務をしていたんですけど、その部署のリーダー的な女性社員が“今日のお昼ごはんは、みんなでカレーを食べに行こう”と言い出したんですね。行きたくはなかったんですけど、流れ的について行かざるを得なくて、けっきょく行ったはいいけど、カレーは食べずにアイスコーヒーだけ飲んでいる、みたいなことがありました。こんな意味わからんことになるなら、最初から断ればよかったと思いましたね。みんな絶対に気づきますから。“ああ、来たくないけど、来てるんや”って。嫌なものは嫌と言わないと、逆にお互いが気を使ってしまうんやなと実感しました」
 同調圧力に屈せず、忖度もせず、自分の意見を言う。多くの人が憧れる生き方だが……。
「性格もあるんじゃないですかね。程度にもよりますけど、嫌なことを我慢しているほうが面倒くさくないという人は、がんばって“嫌いです”と言う必要はないと思うんです」
「でも、私は逆で、嫌なことはどうしても顔に出ちゃうし、ごまかせないし、そもそもごまかすのも面倒くさいと思ってしまうタイプなので、はっきりと言っちゃいますけど。それに芸人は、文句や不満を言ってもおもしろかったら許してもらえるところがありますから」
 また、想像以上に「嫌い」と言えている人は多いのではないかと指摘する。
「意外とみんなちゃんと言っていると思うんです。“嫌いって言えない”という人もいますけど、何をカマトトぶってんねんと。それに、嫌なことをできるだけ遠ざけたいというタイプの人は、私みたいに“嫌いです”みたいなストレートな言い方をするんじゃなくて、その場が収まるようにうまく言えている印象ですね。それって、言った後のことを想像しているからできることであって、好きも嫌いもしっかりと自分の感情を相手に伝えられている気がします」
ヒコロヒー 芸人。1989年生まれ、愛媛県出身。松竹芸能大阪養成所を経て、2011年にデビュー。『キョコロヒー』(テレビ朝日系)、『5時に夢中!』(TOKYO MX)、『ドーナツトーク』(CBC)『大竹まこと ゴールデンラジオ!』(文化放送)、『平和不動産 presents CURIOCITY』(TOKYO FM)などにレギュラー出演。初のエッセイ「きれはし」が発売中。2022年7月、CONVERSE TOKYO×ヒコロヒー、コラボレーション第2弾が決定!
衣装/CONVERSE TOKYO
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