10月16日のライブを最後に活動休止したロックバンド・黒猫チェルシー。もちろん、彼らは解散したわけではないということを前提に、ボーカルの渡辺大知に理想的なバンドの“終わり方”について聞いた。
「セックスピストルズは結成して1年ぐらい、キャロルは2年で解散。それでも、永遠に聴き続けたくなるような曲がある。僕がリアルタイムで見ていてかっこいいなと思ったのは、ゆらゆら帝国の終わり方。僕は大ファンなんですけど、『空洞です』というアルバムを出した時、“ゆら帝”にはもう望むものは何もないというぐらいすごい作品だったのに解散するという発表があって。何て潔いんだと思いました。ファンに思い残すことは何もないと思わせてスッと辞めるなんてかっこいいなと。バンドって生き物のようなところがあるので、生まれたからにはかっこよく死にたい、かっこよく終わらせたいという気持ちはあります」
俳優としても活躍している渡辺が"役"と離れる瞬間は?
「どんなに重い役だったとしても、それを私生活まで引きずるようなことはないですね。自分がやろうと思っている役が目の前にあって、そのことについて常に考えてはいますけど、クランクアップしたらもう何も考えることはありません。そもそも、撮影が全部終わったから役と離れるという意識がないのかも。自分が演じる役に対しては、どこか客観性が必要なのかなと思っています。結構ドライに向き合っているかもしれないですね。ただ、映画もドラマも、ある程度の期間、ずっと一つのものをみんなで作っているわけですから。長く時間を共にした共演者やスタッフの方たちと、またしばらくは違う生活を送ることになるのかという寂しさや虚無感のようなものは覚えます。特に温かい現場だったり、楽しく仕事ができたチームだったらなおさら強く感じますね」
来年、平成という一つの時代が終わり、新しい元号に変わる。
「僕の中では“区切り”という意識が薄いと言いますか、特に気にしたことがないんです。一日の中にもいろんな終わりがあり、一年はその目まぐるしい終わりの繰り返し。だから、一年の最後に何か特別なことをするということはありません。大掃除もしたことがないですね(笑)。大晦日と元日は、今日と明日と一緒だという感覚。でも、周りからはもっと区切りを作った方がいいんじゃないかと言われたことがあります。そんな僕でも“平成”が終わって新しい元号になることに関しては、ちょっとワクワクするものがあります。今までは懐かしいといえば“昭和”を指すことが多かったですけど、これからは“平成”という言葉がレトロになる感覚が面白いなと。“平成”のレトロ感を取り入れながら、また新しいものが作れるかもしれないという期待を持っています」
現在、28歳の渡辺は“人生の終わり”について何を思うのか。
「僕が10代前半の頃、当時50歳ぐらいだった母親にいつの時代が一番楽しかったのかを聞いたら、『今』という答えが返ってきたんです。なぜなら、笑って死にたいということしか考えていないって。その言葉が印象に残っていて、漠然とどうやったらかっこよく死ねるのかを考えるようになりました。その後、身近な人の死に触れたこともあって、いかに死ぬか、どういう死に方をするのかということは常に頭の中にありますね。僕は、明日死んでもいいつもりで生きているんです。もちろん後悔だらけの人生なんですけど、それはそれで良かったのかなと。これから先、ジジイになっても死ぬまで好きなことをやっていたいし、ちっぽけなことでも興奮したり、感動したり、ドキドキしたい。毎日そのつもりで生きているからこそ、明日死んでも後悔はないと思えるんです」
渡辺大知 わたなべだいち ミュージシャン、俳優。1990年生まれ、兵庫県出身。2007年にロックバンド・黒猫チェルシーを結成し、ボーカルを担当。2009年に映画『色即ぜねれいしょん』で俳優デビュー。本作で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、さまざまなドラマ、映画に参加。今年10月16日、神戸VARIT.での公演をもって黒猫チェルシーの活動を休止。主演映画『ギャングース』が11月23日(金)に公開予定。
ヘアメイク/AMANO スタイリング/Shinya Tokita 衣装協力/ジャケット \42,000 NEEDLES (NEPENTHES )、その他 スタイリスト私物